本研究課題を遂行する上で最終年度となった2020年度の目標は、これまでの研究成果を集約し、単著として刊行することにあった。本研究課題は、2013年度から2016年度にかけて実施した科研費の研究課題「1960年代のテレビ文化黎明期におけるテレビドラマ制作と〈文学〉」(若手研究(B))をさらに展開するものであったが、それと併せた8年間の研究成果として、2020年12月に単著『テレビドラマと戦後文学 芸術と大衆性のあいだ』を森話社から刊行した。この単著は、これまでに発表した論文を土台に、書き下ろしの論考を加えることで構成されている。これまでに発表した論文は、各テレビドラマ作品の成立や同時代の評価、視聴者の反応を前提とした作品解釈、あるいは、テレビ業界にかかわった表現者たちの動向を考察することに主眼があったが、単著を刊行するにあたって、それらをめぐるさらに大きな状況、例えば、テレビ業界の動向や、当時のテレビドラマにおける表象、物語類型を視野に入れ、これまでに発表した論文もその観点から再考した。その結果、本研究が考察の対象としていた1950~60年代のテレビ業界やテレビドラマ制作をめぐる状況を大きく俯瞰する視点が確保され、本研究が体系的なものとなったように考えられる。これは、本研究課題を申請する際に考えた研究の目的や、研究実施計画に沿ったものであり、交付申請書に記載した内容をそのまま実践した結果でもある。また、本研究課題から得られた結論は、現在における芸術や表現のあり様とその大衆受容の問題へと接続することができるため、今後の研究課題を発想する土台にもなった。
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