2020年度には、2019年度に立命館大学アート・リサーチセンターにおいてデジタル撮影した、上方芝居番付コレクション約100点の画像を、アート・リサーチセンター番付ポータルデータベースに組み入れた。その上で各番付の上演を考証し、同データベースへ上演情報についても反映させた。 また、幕末から明治期にかけての江戸・東京の歌舞伎年代記『続々歌舞伎年代記 乾』(田村成義著、市村座、1922年)に収録される安政6-明治元年(1859-68)までの記録から、慶応3年・明治元年(1867・68)の配役情報(約2000件)を抽出し、本研究において2017年度より作成を開始していた、配役による歌舞伎上演年表のデータベース「続歌舞伎年代記配役閲覧データベース」(約10200件)を完成させた。同データベースは一般利用が可能な状態で、立命館大学アート・リサーチセンターのWebサイト上で近日中に公開される予定である。 さらに、2020年4月に採択された科学研究費補助金・研究成果公開促進費(学術図書)の支援を受けて、本研究の研究成果を研究篇(第1~3部、研究論文15本)と資料篇(資料翻刻3本)としてまとめた学術図書『江戸歌舞伎の情報文化史』(倉橋正恵著、汲古書院)を、2021年3月に刊行した。同書では、第1部に江戸後期の劇場内部資料である『中村座日記』を中心に、歌舞伎興行の実態と興行に付随する劇場から出版・配布される芝居番付の関係性について考察した。第2部では、歌舞伎興行や役者に関する芸能情報が二次情報化され、商品として都市生活に浸透していく過程とその背景を明らかにした。第3部では多様な芸能出版物の情報から、新たな芸能記録・情報として再生産されていく様相を明らかにした。資料篇の3本は、研究篇の研究論文で考察した資料の全翻刻であり、いずれも今回の翻刻により初めて公開されたものである。
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