申請書において、第3年目の「研究計画・方法」として記した、「音の表現に関するエッセイ群のデータベースを整備し」、「これら初出本文をスキャナーで読み込み、PDFファイル化する」作業については、あまりに膨大な量となったため、全体像を把握する計画を変更し、音の要素をタイトルとして持つ作品についての音の表現の効果について、論考化することを優先して行った。宮本輝の小説を五感表現にも注目して論じたものを10章で論じた『宿命の物語を創造する 宮本輝の小説作法PartⅠ』(追手門学院大学出版会、2020年1月)を上梓した。また、「開巻の音」(『国際教養学部紀要』2020年3月)も発表した。また、小説における五感要素について、間接的ではあるが、『匂いと香りの文学誌』(春陽堂書店、2019年10月)に収めた論考の中で、感覚の文字による再現の仕組み等について論じた。 また、本研究で得られた成果を、2019年11月7日および11日に、イタリアのナポリ東洋大学において、日本語の表現の特徴研究として口頭発表し、ナポリ東洋大学の教員およびイタリア人学生たちと意見交換を行った。タイトルと内容はそれぞれ、「日本近代文学に見る音と香りの表現」(7日、夏目漱石「草枕」「それから」、永井荷風「すみだ川」「腕くらべ」、谷崎潤一郎「美食倶楽部」「盲目物語」「春琴抄」、川端康成「伊豆の踊子」、太宰治「斜陽」「人間失格」などを対象)、「日本現代文学に見る音と香りの表現」(11日、三島由紀夫「豊饒の海」、大江健三郎「飼育」「死者の奢り」、村上春樹「海辺のカフカ」「1Q84」、宮本輝「朝の歓び」「ここに地終わり 海始まる」、平野啓一郎「日蝕」などを対象)というものである。 以上のとおり、最終年度は研究成果の公表を中心として行った。
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