研究課題
基盤研究(C)
小説は文字だけで構成される芸術である。そこには音は聞こえない。本研究は、言語芸術である小説の中に描かれる聴覚要素が、どのように読者に伝達され、そこでどのような表現効果を持つのかについて、日本近現代の多くの小説を対象に研究した。作者が聴かせたい音は、ある場合には、作品の物語の枠組みを示し、作中の雰囲気を予兆し、また、登場人物の造型や状況、性格や人間関係などを譬喩的に示すものとして機能する。
日本近現代文学
作者が小説作中に音や音楽を描くことで、読書行為において何が変わるのかについて明らかにすることにより、小説などの文字だけでできた言語芸術を鑑賞することの本質、すなわち、本来描かれていない音などを想像力をもって読者が再現することにより、読書が果たす認知的役割が明らかになる。これは、音楽に関わる美学的な研究分野にも波及する論点と考える。また、主たる対象とした大正文学自体が、研究対象としては不遇であり、これに着目することで、文学史の見直しの契機になることも期待できる。