研究課題/領域番号 |
17K02481
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研究機関 | 帝塚山大学 |
研究代表者 |
後藤 博子 帝塚山大学, 文学部, 准教授 (80610237)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 演劇文化 / 歌舞伎 / 浄瑠璃 / 対馬藩 / 大和郡山藩 / 上演記事 / 地域文化 / 江戸藩邸 |
研究実績の概要 |
近世の地域と都市の文化がどのような関係性をもって交流していたのかを、大名家を媒介とする演劇文化享受の調査を通して解明するため、対馬藩、大和郡山藩の文書調査などを中心に研究を進めた。 第一に、江戸藩邸における演劇文化享受の実態について研究を進めた。さらに共同研究を行い、研究成果の一部をEAJS(2017年9月2日・リスボン新大学)で「大名屋敷における歌舞伎─見物客たち─」のテーマで報告した。大名屋敷において座敷内や庭に仮舞台を設置して演劇を上演していた実態や、足軽小者や女中などを含め家中を挙げて見物していた事例が認められることを明らかにした。さらに、江戸の大名屋敷において芝居町の舞台と同様の演劇文化を享受したいという要望が存在し、それに対応した事例も少数ながら見られることに注目した。袖岡政之助や市川団十郎の上演記録を通して、その実態について考証した。大名屋敷が歌舞伎界を支える一定の基盤であり続けたことを示し、藩邸で享受した演劇文化が各藩の国元に運ばれ、地域文化形成に寄与していたことを明らかにした。 第二に、対馬藩において、江戸藩邸で人形操りの演者から指導を受けた小姓たちが国元で上演している事例に注目し、対馬藩邸での上演記事について翻刻紹介を行った。特に『江戸藩邸毎日記』から抽出した歌舞伎・浄瑠璃等上演記事(元禄十五年から宝永六年まで)を翻刻し、演劇を享受していた対馬藩の状況について考証した結果をまとめた。 第三に、大和郡山藩における藩主が中心となった演劇享受の実態を明らかにするため、柳沢文庫所蔵の『松平美濃守日誌』について読解、研究を進めた。全貌の解明を目指して、調査研究を継続している。さらに、演劇享受に留まらない、文化的歴史的価値が見出されることから、翻刻紹介の必要性を認識し、検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歌舞伎と観客というテーマでの共同研究を進められ、予定通り、EAJSにおいてパネル発表を実施することができた。パネル発表を通じて研究成果を共有したことにより、本研究の対象である近世初期の演劇文化にとどまらず、近世中期、後期における歌舞伎文化の享受についての知見を得られ、大名家の演劇享受が文化形成に果たした役割に関して、江戸時代を通したおおよその見通しを立てることができた。 対馬藩宗家文書の上演記事の考証と調査研究の成果については、継続的に公開を行っていて、今年度も予定していた範囲の翻刻紹介を完了した。 これまで個別に調査を進めてきた対馬藩宗家文書、加賀藩前田家文書、岡山藩池田家文書、大和郡山藩柳沢家文書における上演記事について、大名家の演劇文化享受と国元への影響という観点で、総合的な研究を行った。複数の大名家に共通した要素を見出すことができて、今後の研究の見通しを立てることにつながった。 大和郡山藩柳沢家文書についての考証もおおむね予定通り、進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
第一に対馬藩宗家文書の上演記録について考証し、享保末までをめどとして、翻刻紹介を完了したいと考えている。 第二に、大和郡山藩柳沢家文書の調査をさらに進め、特に『松平美濃守日誌』について考証し、その研究成果の公開を目指す。翻刻だけでなく、影印の紹介も視野に入れて、写真撮影を実施する。 第三に、鳥取藩藩士森藤十郎の日記に見られる、大名家の参勤交代を基盤として江戸と国元の文化交流が行われていた事例について、研究成果をまとめて発表したいと考えている。 第四に、出光美術館所蔵の古浄瑠璃絵看板について考証した結果、近世初期の江戸の演劇文化について絵看板がどのような機能を果たしていたのか、また、具体的な知見が得られた。考証をさらに進め、研究成果をまとめて発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
大和郡山藩柳沢家文書の調査を進める過程で、今年度予定していた『松平美濃守日誌』の写真撮影、および公開にむけての作業を実施する前に、柳沢家文書全体を通した考証が必要であると判断し、撮影、公開を次年度に実施することに変更した。 次年度は柳沢文庫と連携して、『松平美濃守日誌』の全冊撮影を業者に依頼して実施する予定であり、さらにその公開に向けた作業のために、次年度使用額を使用する見込みである。 翌年度分として請求した助成金については、岡山藩池田家文書、加賀藩前田家文書、対馬藩宗家文書に関する継続調査および、他の大名家に視野を広げた調査を進めるために使用する予定である。
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