2019年度は以下3点の研究を実施した。 (1) ロンドン日本協会に関する調査:1891年創設のロンドン日本協会について、同協会の機関誌に掲載された、日本美術や日本文学に関する文献調査を行った。 (2) ジョン・H・ディクソンに関する研究:上記(1)の結果を踏まえて、ジョン・H・ディクソンが日英同盟締結直後に行った研究発表に注目した。来日経験を持つディクソンは、多数の日本人洋画家と交流するとともに、ロンドン日本協会の他の主要メンバーとは異なる主張の持ち主だったからである。この点について、拙訳「ジョン・H・ディクソン「現代日本の美術家たちについて」――一九〇二年、ロンドン日本協会での発表論文(翻訳と注釈)」(『西南学院大学国際文化論集』2020.3.)で研究成果を公表した。 (3)夏目漱石とディクソンに関する研究:上記(2)の結果を踏まえて、ディクソンと英国留学中の夏目金之助(漱石)について調査と分析を行った。具体的には、ディクソンの日本滞在に関する新資料を紹介するとともに、夏目とディクソンの考え方の違いや共通点、さらには文学と美術の交錯について考察した。この点に関する研究成果は、拙稿「日本とスコットランドへの旅――ジョン・H・ディクソンと夏目金之助をめぐって」(『西南学院大学国際文化論集』2020.3.)として公表した。 本研究では、在英経験を持つ日本人に関するデータ、日本政府の外交文書、英国で発行された日本語雑誌、ロンドン日本協会に関する文献、の4点について基礎的な調査を行った。また、それらの調査に基づいて、2018年度の芥川龍之介に関する拙稿や、今年度のディクソンや夏目漱石に関する研究成果を公表した。ただし研究を進める中で、当初の予想以上の関連資料が存在することが判明し、十分な調査や考察はできなかった。今後、より長期的な視野で、新たな研究計画の立案を進めていく予定である。
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