本研究は山村暮鳥の「説教メモ」の翻刻および詳細な検討を通し、明治大正期の文学・哲学・美術・社会問題・宗教の交錯の様相を明らかにすることで、明治大正期の詩の言語形成の底流の一つを探るものである。「説教メモ」は、日本聖公会の伝道師であった山村暮鳥が、説教の準備のため書いたメモであるが、宗教的記述のみならず同時代の幅広い問題に対する思考の記録としての重要性を持つ。思想史、文化史研究にも寄与する資料として「説教メモ」の翻刻・注解を行い、山村暮鳥の詩的言語の形成、他の詩人の詩的言語との交錯の様相を明らかにすることが本研究の目的である。 最終年度となる今年は、「説教メモ」の翻刻作業を進めつつ、山村暮鳥の小説へと研究対象を広げ、言語的、思想的な検討を行った。その成果は、「山村暮鳥の小説における方法意識-『春』を手がかりとして-」(『雲』第24号、2019.9、pp.4-13)として発表した。また、「山村暮鳥と魁新報」(『秋田魁新報』2019.4.15)において、成果を広く一般市民に還元した。 本年までの研究により、「説教メモ」の使用用紙を検討し、その種類と使い方、書記の方法を明らかにして、「説教メモ」の構成の全体像が明らかになった。その成果は「山村暮鳥「説教メモ」使用用紙の検討」(『雲』第22号、2017.9、pp.68-78)として発表している。また、山村暮鳥の詩について、句読法に着目して、表現意識を明らかにする作業も行われた。その成果は、「山村暮鳥『聖三稜玻璃』と句読点の消失」(『雲』第23号、2018.9、pp.2-11)として発表しており、また、「薄田泣菫『白羊宮』における句読点の戦略」(『西日本国語国文学』第5号、2018.10、pp.1-15)において、問題の範囲を広げることができた。「説教メモ」の翻刻に関しては、ほぼすべての翻刻作業が完了した。
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