研究課題
本研究は、18世紀から現代に至るイギリスおよびアイルランドの演劇に登場する家族(特に兄弟姉妹)の姿を考察することで、演劇が描出する家族表象が、各々の時代の問題意識を反映させながら柔軟に変化してきた、そのダイナミズムを明らかにせんとするものである。研究の三年目にあたる本年では、こうした広範な要素についてそれぞれ成果発表を行うことを重視した。そのため、経年劣化していたノートパソコンを買い直し、論文作成環境を向上させるとともに、研究情報収集や成果発表のための旅費に予算を割いた。口頭の成果発表については、2019年10月に鹿児島国際大学で開催された、第58回シェイクスピア学会の特別シンポジアム「初期近代英文学と女性」に参加し、18世紀以前の劇作家たちによる女性と家族の表象の系譜を明らかにしたことが、本研究の背景に厚みを持たせるために大いに役立った。同様に、18世紀演劇に至る女性と家族の表象の流れを明らかにする研究実績としては、十七世紀英文学会による論集『十七世紀英文学における生と死』(金星堂、2019)に掲載した論文「『あわれ彼女は娼婦』に見る〈男女の双子〉という幻想の終わり」があげられる。同時に、もちろん本研究のプロパーである18世紀以降の演劇における研究実績も順調に積み重ねることができた。重要なものは、本研究者が編者のひとりを務めた論集『イギリス文学と映画』において、G. B. ショーの『ピグマリオン』(1913)論を発表したこととである。そのほか国際的な成果発表としては、Peter Lang 社より出版された英語論集に、18世紀アイルランドの代表的喜劇『負けるが勝ち』(1773)についての論文を発表した。
2: おおむね順調に進展している
本研究は順調に進展しており、当初の研究計画に大きな変更はない。2019年度に発表した論文および口頭発表は、最終年度に発表を予定していた単著の下敷きとなる予定であり、最終的な成果発表への見通しはすでに立っている。ただし、COVID-19の世界的感染拡大危機を受け、2019年度末より研究が滞っている状況であるため、「当初の計画以上」ではなく、「おおむね順調」とした。
2019年度までの研究進捗状況は順調であったが、COVID-19 のパンデミックを受け、本研究者が従事する学術研究業界も、麻痺状態となっている。2020年度の開催を予定していた学会は軒並み中止・延期・縮小・代替措置などの対応を余儀なくされ、学術雑誌の刊行スケジュールも大幅に遅れているものがある。また、教育機関の閉鎖などにより、資料調査などにも大きな障害が生まれている。このような状況を鑑み、最終成果発表については刊行が遅れる可能性が否めず、また2020年度の本研究課題の研究費補助金についても、予定通りに執行できない可能性を考えなくてはならないかも知れない。だが、研究については、近年進歩が著しい各国図書館のオンライン・データーベースなどを十全に活用し、可能な限り在宅でできる成果をあげていく予定である。
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