研究課題/領域番号 |
17K02491
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 和久 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 名誉教授 (10108102)
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研究分担者 |
丹治 愛 法政大学, 文学部, 教授 (90133686)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 20世紀イギリス小説 / 文学史 / モダニズム / ポストモダニズム / ディストピア / メタフィクション |
研究実績の概要 |
初年度である今年度は、本研究の予備的作業として、以下のふたつの点について中心的に研究を進めた。 (1)20世紀のイギリス小説の全般的傾向を明らかにする。この点に関して示唆的なのは、ピーター・バリー『文学理論講義: 新しいスタンダード』(高橋和久[監訳]、ミネルヴァ書房、2014)の「モダニズムとポストモダニズム」の章だろう。啓蒙主義に対する共通でありながら対照的なハーバーマスとリオタールの姿勢をとおして、モダニズムとポストモダニズムの共通点と相違点を規定する一方で、ボードリヤールのシミュラークル論に言及しながら、ポストモダンのメタフィクションの本質を定義するバリーの論の妥当性を、モダニズムとポストモダニズムの個々の作家たちの作品を検証しながら確認する。 (2)モダニズムとポストモダニズムの小説が啓蒙主義への不信という20世紀的特質を共有しているとしたら、啓蒙主義的なユートピアの反転としてのディストピアを描いたディストピア小説も、20世紀の第3のジャンルとして(20世紀になって数が急増している)、共通の枠組みのなかで論じることが可能だろう。ディストピア小説とモダニズムやポストモダニズム小説の相互の関連性を確認する。 そのかたわらで、高橋は『20世紀イギリス小説の展開』の序となる、20世紀イギリス小説の流れを概観する章の執筆に着手した。研究分担者の丹治はその文学史のなかでとりあげるべき作家と作品を具体的に選択し、それぞれの執筆担当者18名を決定するとともに、執筆とその後の合評会、そして出版にいたるスケジュールを策定した。初年度末の段階ではまだ数人の原稿しか集まっていないが、2018年度の夏には大半の原稿が届く予定であり、夏休みから2019年度の5月ごろまでに数度の合評会を開催する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の書籍(『20世紀イギリス小説の展開』)の出版にむけて、とりあげる作家・作品の決定、執筆者の決定、原稿執筆後の合評会のスケジュールの決定など順調に進行している。文学史執筆の前提となる基本的概念も、執筆者のあいだで徐々に共有されてきている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、それぞれの作家・作品についての作品論的批評論文が出揃ってくるので、それぞれの批評論文の独創性を維持しながら、文学史全体としての統一性をはかっていく。そのために数回の合評会を開催する可能性があるだろう。そのようなプロセスをとおして、20世紀イギリス小説の大きな特徴を記述していくことが、もっとも重要な作業となっていくだろう。最終的には研究代表者の高橋がそれをまとめていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
丹治(研究分担者)が、2018年2月まで、本プロジェクトの一環としてコンラッド『密偵』論を書くことに集中し、それ以外の作品、とくに20世紀後半のイギリス小説についての資料収集が遅れているため。次年度以降、それらの分野での資料収集に力を入れたい。
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