研究課題/領域番号 |
17K02492
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 宜子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (80302818)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中世後期英文学 / 中世後期フランス文学 / 英仏百年戦争 / ジョン・ガワー / 海峡横断的文学圏 / トランスナショナル / 平和 |
研究実績の概要 |
本年度は、大英図書館蔵Additional 59495写本に含まれるGowerの英詩“To King Henry the Fourth in Praise of Peace”の創作を取り巻くトランスナショナルな文脈として、英仏間の恒久的な和平と西欧キリスト教世界の統一を希求した英仏両国の一群の詩人や作家たちによる文学運動を考察した。第一に、この文学運動の中核に位置したフランスの著述家Philippe de Mézièresの代表作である“Epistre au roi Richart”と“Songe du vieil pelerin”を分析の対象とし、彼が平和の「伝道者」としてイングランドに派遣した詩人Oton de Grandsonの政治的・文学的活動についても調査した。次に、Grandsonの友人であったEustache Deschampsの著作の中から、教会大分裂を批判し、平和を擁護して書かれた“Complainte de l’Eglise,”および同種の主題を扱った複数のバラードを選び、分析した。さらに、英仏間の和平交渉にイングランド側から参加したLewis CliffordとGeoffrey Chaucer, Grandson, Deschampsの交友関係に注目し、海峡横断的な文学圏の形成を支えた人的交流の実態の解明に努めた。さらに、来年度の研究を先取りする形で、Gower作品の一部に見られる書簡性という特徴に着目し、修辞学とジャンル研究の観点からその文学的・政治的な意味の分析を試みた。本年度の成果の一部は、7月にイギリスのダラム大学で開催されたIV International Congress of the John Gower Society, および11月に奈良の大和文華館で開催された Ménestrel au Japonにおいて口頭で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大英図書館蔵Additional 59495写本に残されたGowerの英仏語の詩作品、およびPhilippe de MézièresとEustache Deschampsの作品に関しては予定どおりに研究を遂行した。1380~90年代の英仏和平交渉に参加した人物間で繰り広げられた文学的交流の実態についても調査は順調に進んだが、来年度の研究計画の一部を先取りして行ったため、当初予定していたHonorat BovetとChristine de Pizanの著作については調査を完了することができなかった。今年度の研究の未完部分については、来年度の計画を微調整することにより、今後、完了する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、教会大分裂や戦争をテーマにして書かれたHonorat BovetとChristine de Pizanの著作の調査から始め、その後は当初の計画のとおり、Gower, Chaucer, Deschamps, Christine de Pizan, Hoccleveの作品の中で書簡体がどのように用いられているかを分析する。それにより、この形式の使用がpublic poet(もしくはpublic writer)としての作者の自己形成にどのように寄与したかを考察する。そのうで、公共善の促進に貢献しようとする作者の姿勢が、この時期の海峡横断的文化圏の作家たちの文学的活動を特徴づける重要な側面のひとつであることを証明する。
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