研究課題/領域番号 |
17K02492
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 宜子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (80302818)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中世後期英文学 / 中世後期フランス文学 / 英仏百年戦争 / ジョン・ガワ― / 海峡横断的文学圏 / トランスナショナル / 平和 |
研究実績の概要 |
本年度の前半では,昨年度に未完に終わった調査(教会大分裂や戦争をテーマとして書かれたHonorat BovetとChristine de Pizanの著作の調査)を実施し,昨年度の研究成果を3編の論文にまとめて,各々異なる論文集に寄稿した。また,11月には英国のケント大学名誉教授であるA. S. G. Edwards教授を駒場に招き,中世英詩の写本に関する講演を行なっていただいたほか,John Gowerの詩が収録されたTrentham写本の分析方法に関して貴重な助言を賜った。 このほかに,本年度の当初の計画を遂行すべく,以下の研究を実施した。百年戦争後期に英仏両国の詩人によって頻繁に用いられた書簡体形式に着目し,この形式の使用がpublic poetとしての作者のアイデンティティを確立するうえで重要な手段になっていたことを下記の方法で明らかにした。 第一に,Trentham写本制作以前に書かれたGowerの作品のうち,Vox ClamantisとConfessio Amantisの中に書簡体のテクストが含まれており,同写本に収録されたCinkante Baladesの一部が作者自身によって書簡と定義されていることから,これらの作品とTo King Henry the Fourth in Praise of Peaceとの関連性を考察した。第二に,同じく書簡体の形式を帯びたEustache DeschampsのComplainte de l'Eglise, Christine de PizanのEpitre au dieu d'amourとEpitre d'Othea, および特定の人物への書簡として創作されたChaucerの数篇のバラードを考察の対象とし,各々の作品において作者のアイデンティティがどのように形成され,読者との関係がどのように構築されているかを分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Gowerの3作品(Vox Clamantis, Confessio Amantis, Cinkante Balades),Eustache DeschampsのComplainte de l'Eglise, Christine de Pizanの2作品(Epitre au dieu d'amourとEpitre d'Othea)とその英訳,およびChaucerのバラードに関しては予定どおりに研究を遂行した。しかし,前年度の研究成果を論文にまとめることに予想以上に時間が割かれ,当初の計画に含まれていた第三の点(ars dictaminisの伝統とAegidius Romanusの君主論に代表される助言文学の伝統の再検証)については調査を完了することができなかった。今年度の研究の未完部分については,来年度の計画を微調整することにより,今後,完成させる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は,ars dictaminisの伝統とAegidius Romanusの君主論に代表される助言文学の伝統を再検証することから始め,その後は当初の計画どおり,百年戦争期の英仏両国におけるバラードの流行をhistorical formalismの見地から考察する。より具体的には,Gowerのフランス語によるバラード連作Cinkante Baladesに焦点を絞り,同時代のフランスの騎士Jean Boucicautらによって1380年代末に編まれたLivre des cent ballades, Oton de Gransonのバラード連作,Christine de PizanのCent ballades d'amant et de dame, Gowerのバラードからの影響が指摘されているCharles d'Orleansの一連のバラード等と比較しながら,Gowerの仏語作品の文学史上における意義を明らかにする。
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