研究課題/領域番号 |
17K02495
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
辻 照彦 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (30197678)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リア王 / 第一・四つ折り本 / 第一・二つ折り本 / テクスト間の異同 |
研究実績の概要 |
平成29年度は『リア王』の第一・四つ折り本と第一・二つ折り本のテクスト間に見られる頭書き(Speech Prefix)の異同を中心に分析した。頭書きの異同は20か所以上も存在し、その半数近くが最後の5幕3場に集中している。 頭書きの異同については、従来、第一・四つ折り本を印刷した際の、植字工による誤植が主要な原因とされてきたが(Ian Duthie, King Lear, 1949)、本研究では、第一・四つ折り本の頭書きは、印刷の際に、何者かにによって意図的に変更されたものであることを証明しようと試みた。分析したのは、(1)1幕4場のリアとケントの頭書きの異同、(2)2幕4場のリアとゴネリルの頭書きの異同、(3)5幕3場のリーガンとエドマンドの頭書きの異同である。 これらすべての例において、第一・二つ折り本の頭書きがシェイクスピアの書いたオリジナルであり、それが第一・四つ折り本に見られるような頭書きに変更されたものであること、その変更は偶然に起きることは困難であり、何者かによって、意図的に変更された可能性が高いことを、異同個所の詳細な分析により証明した。少なくとも頭書きについては、編集者的な人物が、シェイクスピアのオリジナルを独自のロジックに従って独断的に変更していった過程を再現することができた。 本年度の研究成果は、『新潟大学言語文化研究』第22号(2018年2月)に「『リア王』のテクストに見られるSpeech Prefixの変更に関する一考察」として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度については、研究実施計画がほぼ達成され、4年間の全体的研究目的の達成に向けて順調に研究作業が進んでいると言える。本研究の目的は、『リア王』の第一・四つ折り本と第一・二つ折り本のテクスト間に見られる異同を網羅的・包括的に分析することにより、第一・四つ折り本のシステマチックな編集の全貌を明らかにしようとするものであるが、最初に取り組んだ頭書きのレベルの異同について、第一・四つ折り本テクストに加えられた編集の痕跡を詳細な分析を通して証明することができた。今後、残された3つのレベルの異同( 3行以上の比較的分量のあるパッセージの異同、ト書き(Stage Direction)の異同、語句表現の異同)へと研究を進めていく予定だが、平成29年度の成果は、本研究で採用しているアプローチが有効であることの証左となる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、平成29年度に得られた成果をもとにして、『リア王』の第一・四つ折り本に見られる編集の痕跡の分析を続ける。『リア王』は第一・四つ折り本にのみ見られるQ-only Passageだけでなく、第一・二つ折り本にのみ見られるF-only Passageが比較的多く見られる珍しい作品である(Vickers, The One King Lear)。 F-only Passageが、第一・二つ折り本のテクストに後に加筆されたものではなく、もともとオリジナルに存在していたものが、第一・四つ折り本のテクストから意図的に削除されたものであることを示す決定的な証拠として、3つのパッセージを分析する予定である。それらは、1幕2場のエドマンドの台詞、1幕4場のゴネリルの台詞、3幕6場の道化の台詞である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生したのは、『リア王』のヴェオリアラム・エディション並びにエリザベス朝演劇全般の出版事情に関する新刊研究書を数冊購入する予定だったものが、発行が数か月延期されたためである。平成30年度内に発行され次第、速やかに購入する予定である。学会出張としては、日本英文学会、日本シェイクスピア学会、エリザベス朝研究会、さらに、大英図書館において『リア王』第一・四つ折り本の冊子間異同に関する調査を実施する予定である。
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