研究課題/領域番号 |
17K02503
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研究機関 | 名古屋学院大学 |
研究代表者 |
西村 美保 名古屋学院大学, 外国語学部, 教授 (60284452)
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研究分担者 |
濱 奈々恵 福岡大学, 共通教育研究センター, 講師 (10711278)
松倉 真理子 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (90390145)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 性的堕落 / 女性労働者 / モラル・スタンダード / ヴィクトリアニズム / 偏見 / 差別 / 救済の方法 / 移住 |
研究実績の概要 |
研究代表者の西村はギャスケルの『リジー・リー』などの短編、および長編の一つ、『ルース』を精読し、特に後者についてギャスケル協会の記念論文集に掲載する論文を執筆して2017年の年末に提出し、査読を経て掲載が決まった。『ルース』における「善良な女」としての女性労働者に着目して、主人公ルースとの表象の差異を分析し、他のヴィクトリア朝小説における両極端な女性労働者たちの表象と比較検討した。さらに、2018年3月には、学内の研究発表会において、『ルース』に焦点を当てヴィクトリア朝の「堕ちた女」の文化的コンテクストと表象について発表した。 研究会については、3回開催した。第1回は分担者濱からE.ギャスケル『メアリー・バートン』を含め、ギャスケルのどの作品に「堕ちた女」が登場するかについて報告があった。文化的背景と文学表象としての「堕ちた女」を考察し、社会福祉の観点からも、意見交換した。2018年夏の海外出張についても話し合った。第2回研究会では分担者松倉が近代日本における「堕ちた女」の視点から「救う女」について考察し、発表した。松倉はさらに議論を展開させ、「堕ちた女」の他者性と当事者性についての考察を日本社会福祉学会で発表した。さらに、第2回研究会では西村が文化的コンテクストの理解には欠かせないエリック・トルージルの研究書から、重要な情報を提供した。第3回研究会では、西村による『ルース』の研究内容紹介と濱による書評の報告があり、海外出張の具体的な旅程について吟味した。濱は『メアリー・バートン』とその他のギャスケルの作品(主に中・短編)の精読を行った。ギャスケル作品における「堕ちた女」「売春婦」の存在の有無を確認すること、ギャスケル作品に登場する地名(特に「堕ちた女」や「売春婦」との関連がありそうな場所)を精査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると言えるのは、一つには、すでにギャスケルの『ルース』に関して、これまでにない視点から研究成果が出たからである。ギャスケルの作品研究に関しては、まだ今後吟味する必要がある作品も残ってはいるが、『ルース』における「堕ちた女」の吟味が終了したことで、今後他のギャスケル作品を読む際により深い論が展開できるだろう。今後はギャスケルの他の作品を吟味していく。二つ目の理由はハーディの作品についても、『狂乱の群れを遥か離れて』や『ダーバヴィル家のテス』における「堕ちた女」の吟味は済んでいるからである。再度読み直し、できるだけ多くの他のハーディの小説や詩を吟味していけば、様々な発見があることが想定できる。あとは他のヴィクトリア朝作家の作品を読んだり、絵画や雑誌におけるイメージについての分析を同時並行して行っていけばよい。濱に関しては、ヴィクトリア朝の「移民」や「移住」に関する研究を行う必要性を感じて、現在のところ、Janet C. MyersのAntipodal Englandでヴィクトリア朝期における移民の状況とそれを描いた文学作品についての理解を深めること、また実際にオーストラリアに渡ったCaroline Chisholm の伝記で生活状況の理解を深めることを目標にして研究にあたっている。しかしながら、ヴィクトリア朝の状況や、当時の作品分析、救貧院や女性労働者のセクシュアリティに関する研究書の精読など、すべきことも多く残っていることから、当初の計画以上に進展しているとまでは言えない。おおむね順調に進展しているのは確かである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、平成30年度は海外出張に重きが置かれる。連合王国とオーストリアを中心にヨーロッパへ現地調査に赴く。西村は経由地のヘルシンキでも資料収集を試みる。「堕ちた女」の実態や救済のしくみ、そのための施設などに関する史跡の視察や史資料の収集に取り組む。ゆえに、それに向けて事前準備、下調べを進める。出張の際に、国内では手に入りにくい資料にあたり、19世紀の新聞、雑誌を吟味する。帰国後は研究会を開催するのはこれまでよりも難しくなると思われるので、メールで時折進捗状況を報告しあったり、論文を送付するなどして、情報提供する。 三者とも、文学表象の研究を続ける一方で、本研究テーマに関連したより詳細な各自の研究テーマを探求する。西村は「堕ちた女」をめぐる文化的コンテクスト―特に女性の抑圧の問題、「堕ちた女」の社会的扱い、当時のモラル・スタンダード、救貧院、移民を含む救済方法の検討など―の探求に力を注ぐとともに、絵画や雑誌におけるイメージについての分析を進める。また、松倉は日本における状況の調査を歴史資料を精査することで推進する。濱は、主に1830年代から1800年代末までの「移民」や「移住」に関する研究を行う。具体的には、(1)この当時、イギリスから連合王国(主にオーストラリア)に渡った女性がどの程度いたのか、(2)移住に至った経緯は何だったのか(特に犯罪(主に売春関連)の可能性)、(3)オーストラリアでどのような生活をしたのかなどについて研究を行う。 以上が今後の研究の推進方策と内容である。
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次年度使用額が生じた理由 |
分担者二名は福岡に在住しており、研究代表者と距離がある。研究会を開催するには、出張旅費を出すにも、9,900円ではまかなうことができず、文具等も年度末の段階では特に不足していなかったので、次年度に回すこととなった。2018年8月下旬から海外出張をする計画で、かなり旅費がかさむため、平成30年度分として請求した50万に加えて使用する計画である。2万円は物品費とした。以上が次年度使用額が生じた理由と使用計画である。
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備考 |
本研究遂行のための研究会で毎回1件ずつ発表を行い、書評も行った。また、名古屋学院大学の第49回教員合同研究会(2018年3月7日)で西村がギャスケルの『ルース』における家事使用人の表象について発表した。2018年発行予定の図書に掲載が決まった論文名は、「『ルース』における家事使用人、サリーの役割―「堕ちた女」と「善良な女」の対比を通して―」である。
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