研究課題/領域番号 |
17K02503
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研究機関 | 名古屋学院大学 |
研究代表者 |
西村 美保 名古屋学院大学, 外国語学部, 教授 (60284452)
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研究分担者 |
濱 奈々恵 福岡大学, 公私立大学の部局等, 講師 (10711278)
松倉 真理子 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (90390145)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 博愛主義 / 救済 / 女性労働者 / 救貧事業 / 日英比較 / 孤児 / ヴィクトリア朝 / 18世紀 |
研究実績の概要 |
2020年度はオーストラリアの救貧院を周り、現地調査・資料収集をする計画だったが、自然災害の影響や、何よりコロナウィルスの感染拡大のため断念した。分担者濱は国内においてオーストラリアの救貧院やCaroline Chisholm(1808-77:キャロライン・チザム)の功績などについて情報を得た。チザムの救貧院はイングランドからの移民を救済することを目的としている点、また生活費を稼ぐ手段として売春業に走りがちだった女性や、子どもを持つ母親たちに教育を施す点において特徴的である。女性を単に「救われる存在」と位置づけるのではなく、イングランドの植民地政策や国家形成に貢献する要因として機能させようとした点は、ギャスケルやハーディの作品に描かれる「堕ちた女」との大きな違いである。代表者西村は主にJennie Barchelor and Megan Hiatt (ed.) The Histories of Some of the Penitents in the Magdalen-House, as Supposed to be related by Themselves (1760) (London: Pickering & Chatto, 2007)を精読し、第一回研究会において報告し、女性の救済を訴える博愛主義的な視点がすでに18世紀に見られることを確認した。上記作品はマグダレン・ハウス収容者が物語った形式をとる物語であるが、匿名で序文を書いた作家がおり、作家と博愛主義者との関係性を吟味することの重要性を感じた。分担者松倉は日英の比較において「堕ちた女」に向けられる社会的なまなざしには共通点がみられる一方で、「救う女」たちが掲げた論理は対照的であるとの考察結果を上記研究会において報告した。また、「堕ちた女」や「孤児」を中心とした救貧事業に関する年表をまとめる作業に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナウィルス感染拡大の影響で、研究会を1度しか開催できず、また、オンライン授業の準備に忙しく、研究に時間を割くことは難しかったが、そのような状況下で、地味に資料収集と精読・分析を続け、当初イメージしていた作品と文化的コンテクストの分析をほぼこなせているため。直接的な成果としての論文執筆とは至らなかったが、上記研究実績の概要で記載したように、そこへ向かう過程として確実に進展している様子が窺える。また、出張が出来なかった分、書籍の購入に科研費を充てることができて、かなり情報収集することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も感染状況を見ながら、可能なら1度は研究会を開催したいと考えている。また、必要な資料の入手を早めに行い、精査する時間の確保に努める。当初の計画を定期的に吟味することで、検討すべきことを明確にする。そして論文執筆に向けて計画を立て、着実にこなすよう努力する。代表者西村は「堕ちた女」のイメージについてヴィクトリア朝の絵画を吟味することで分析する。その一方で、18世紀からヴィクトリア朝終焉までの時期を視野に入れて、博愛主義者についての研究も徐々に行う。今年度は最終年度なので、分担者松倉と連絡をとり、本研究テーマに関する日英の比較も加速させたい。 分担者濱は、博愛主義者ミセス・クッツ(Angela Burdett-Coutts 1814-1906)についても着目しているので、オーストラリアでの状況も含め、研究を進めることになる。社会的コンテクスト(=「堕ちた女」の救済を目指す)と小説(=「堕ちた女」を本人あるいは社会の悲劇とする)の間で「堕ちた女」の受容にギャップがある理由を今後探求していく。ギャスケル、ハーディ以外のヴィクトリア朝小説・詩においてはどのようになっているのかを時間軸の縦・横から調べることで、「堕ちた女」をめぐる表象や受容をさらに明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究者によっては、ほぼ使い切った者もいるが、一部の次年度使用額が生じた研究者については、コロナウィルス感染拡大で出張ができなかったこと、そしてオンライン授業関連で忙殺され、新たに購入する書籍についての情報収集さえままならない状況だったからだと思われる。使用計画としては今年も感染拡大が収束する見通しが立たないので、旅費に充てるのは一部にして、主に書籍の購入と他大学にある書籍の複写費や送料に充てる予定である。
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