研究課題/領域番号 |
17K02505
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
新井 英永 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (00212598)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 太平洋 / ドゥルーズ=ガタリ / D・H・ロレンス / 白豪主義 / ナショナリズム / アボリジニ / サマセット・モーム / ジャック・ロンドン |
研究実績の概要 |
英米モダニズム文学における環太平洋ナショナリズム表象を分析するために、大熊昭信・庄司宏子・編著『グローバル化の中のポストコロニアリズム――環太平洋諸国の英語文学と日本語文学の可能性』(2013年)や、遠藤不比人・編著『日本表象の地政学――海洋・原爆・冷戦・ポップカルチャー』(2014年)、小野俊太郎『太平洋の精神史――ガリヴァーから「パシフィック・リム」へ』(2018年)等の先行研究の検討を行なった。 これと並行して、ドゥルーズ=ガタリ『哲学とは何か』における「ペルセプト」や「アフェクト」等の概念に着目しながら、D・H・ロレンスによるオーストラリアを舞台にした長編小説『カンガルー』(Kangaroo, 1923) におけるいくつかの場面の情動論的読解を試みた。その結果、『哲学とは何か』と『カンガルー』という二つのテクストがいかに響き合っているかが明らかになった。同時に、『カンガルー』が当時のナショナリズムの一形態と目される白豪主義を表象する一方、オーストラリア先住民「アボリジニ」の表象を挿入することにより、白豪主義的ナショナリズムの言説に対する逃走=闘争の可能性を追求していることがわかった。 また、環太平洋地域に関する他の英米文学・思想を研究するため、サマセット・モームの『月と六ペンス』(1919) を再読するとともに、ジャック・ロンドンの関連作品の読解を行なった。具体的には、ロンドンがハワイのモロカイ島に上陸しハンセン病患者と交流を持った体験等を基に書いたと考えられる「コナの保安官」(1909) 等の小説である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最新の先行研究に接することができたものの、依然として「太平洋問題研究会」のような諸ナショナリズムの知的せめぎ合いの場の調査が低調である。 また、サマセット・モームのみならずジャック・ロンドンの著作を読むことができたが、それぞれの最新の伝記的研究の検討があまり進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度にサマセット・モームの『月と六ペンス』を再読できたので、ナショナリズムの観点からのモームの環太平洋地域表象、ならびに東アジア表象の特徴を踏み込んで分析したい。 また、ジャック・ロンドンの関連著作も精読し、ロンドンの環太平洋地域表象、ならびに東アジア表象の特徴を分析し、可能であればモームとロンドンを比較考察したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内に海外での資料収集を行ないたかったが、日程的に厳しかったため行なえず、旅費残額が大きくなり次年度使用額が生じた。その分は、翌年度うまく日程を調整し精力的に資料収集等を行なうことにより使用したい。
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