研究課題/領域番号 |
17K02512
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
柳谷 千枝子 (浅田) 岩手医科大学, 教養教育センター, 助教 (40714332)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グレアム・グリーン文学 / ナラティヴ・メディスン / 医療倫理教育 / キリスト教文学 / 病者の心情 / 癒しと回復 / スピリチュアリティ |
研究実績の概要 |
1. イギリスでのG. GreeneおよびNarrative Medicine(NM)調査 医療倫理教育におけるGreene文学貢献の可能性について探るべく、2018年度Graham Greene Birthplace Trust(GGBT)のフェスティバル(9月)のテーマトークおよびオープンディスカッションに参加し、前年度に引き続き、彼の諸作品やナラティヴに関する最新情報と資料収集を行なった。文学における矛盾を孕んだ人間心理の複雑さや葛藤を読み解くことは、病いに苦しむ患者の心の深奥に寄り添う姿勢を養うことに役立つ点から、こうした作品の技法は医療倫理教育の一助となることを確認した。 2. G. Greeneの作品分析(長編)および中間報告 前年度からの「病者視点の物語」の分析を継続し、さらにその研究を深めるべく、Greeneの長編小説A Burnt-out Caseを精査した。そして、国内外で調査・分析した結果を学会での口頭発表・学術誌への論文掲載を通じて中間報告した。 3.ナラティヴ・アプローチによる医療倫理教育の実践 「医療倫理とヒューマニズム」「初年次ゼミ」「English Reading & Writing」の科目の中で、本学の医学生(1学年と4学年)を対象に、Greeneの諸作品とNarrative Medicineに関する教育を実践した。特に「初年次ゼミ」では、NMを意識しながらA Burnt-out Caseの原書を読み進め、作中の病者の心情や回復へのアプローチについて学習することを試みた。学習方法:1) 病いの種類について調査する。2) 作品を精読し、病者の心情や信念について描写されている部分を抽出する。3) 回復のアプローチや癒しとは何かについて調査、考察する。4) 病者の問題点を抽出してレジュメを作成し、発表、ディスカッションする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Greeneの長編小説A Burnt-out CaseとNarrative Medicineの分析結果について、学会発表および学術論文にて中間報告した。具体的には、燃え尽き症候群に罹った主人公の抱える苦悩および信仰に対する姿勢を追いながら、彼が医師やハンセン病患者との交流を通じて再び生きる力や感覚を取り戻し、絶望から回復に至るプロセスに迫った。さらに、作中の様々な症例および聖書の記述を挙げながら、病める人々にとって「癒し」となる要素は何かを明らかにした。また、本学の医学生を対象にした医療倫理教育の実践も計画通りに実践することができた。この教育実践の結果、病者の心情に寄り添う姿勢を育むための医療倫理教育には、QOLやspirituality、health humanities等についての知識と分析も必須であることが分かり、今後の新たな研究課題を発見することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところ、課題研究はおおむね計画通りに進展しているため、今後はさらに国内での他の文学・医療・教育関連の研究会やワークショップに参加する機会を増やし、医療系大学のカリキュラムや文学を活用した医療倫理教育実践方法について研鑚を積む予定である。まず医療倫理教育については、改善点や必要とされる教育項目を見直し、より効果的な教育を提供できるように取り組む。次に作品研究においては、英語科目の授業で取り上げたA.J. CroninのThe Citadelはその内容から医療従事者を目指す初年次の学生にとって重要なテーマを提供し、深く考察する機会を与えてくれた。したがって、Greeneの作品分析と並行して他の文学作品にも触れながら、より良い医療倫理教育の実践を目指していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、コロンビア大学メディカルセンターのNarrative Medicineワークショップへの参加を予定していたが、研究課題テーマに関連したワークショップが開催されなかったことと勤務校での海外出張時期と重なったことによりアメリカで実地調査できなかったため。しかし、最終年度に研究成果をまとめて出版する準備を進めており、その出版費用の一部に充てること、また医療倫理教育を実践する上で重要な資料を収集するために国内のワークショップや資料館に出向くことを計画している。
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