研究実績の概要 |
本研究は4年間の期間でシェイクスピア劇に組み込まれた小唄70曲にかんして網羅的に同時代の大衆歌謡文化との関連性を調査・分析し、シェイクスピア劇の小唄の特性を聴覚的な娯楽文化の脈絡から解明する。初年度はシェイクスピア劇の小唄それぞれに関し元歌の有無と節回しを調査し、バラッド販売に関する実態を調査した。 初年度において本研究はシェイクスピア劇の小唄に関する従来の一連の書誌学情報(J.H.Long(1955,1961,1971), F.W.Sternfield(1963), P.J.Seng(1967), J.M.Ward(1992), R.Duffin(2004), D.Lindley(2006))を整理し、シェイクスピア劇の小唄それぞれに関し元歌の有無の点検と節回しの特定化の作業を行った。そのさい本研究はP.J.Sengのように分析対象の小唄を歌詞が掲載されているものに限定せず、『十二夜』の「三人の陽気な男たち(Three Merry Men)」のようにタイトルだけが言及され、歌詞は収録されていないものの舞台上で歌われていた可能性がある曲も検討した。 また本研究の初年度は対象時期を1590年から1610年までに絞り、印刷出版組合に登録されたこの時期のバラッドを可能な限り調査し、好まれたトピック、ジャンルの傾向を調査し、識字率の関係からバラッド作者(販売業者)がターゲットとして想定したのは一定の収入をもつ男性であし、ることを突き止めた。本研究は(1)元歌関連の分析、(2)商品としてのバラッド、(3)エリザベス朝イングランド社会の諸制度を背景としたシェイクスピア小唄の歌詞の再検討、の3分野に分けて調査・分析を行い、初年度は(1)および(2)の分野で重点的に遂行した。その成果は研究論文「シェイクピア劇の小唄の特性とコンヴェンション」においてにおいて発表されている。
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