研究課題/領域番号 |
17K02515
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
英 知明 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 教授 (60218518)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ジェイムズ・シャーリー / 17世紀演劇 / 喜劇 |
研究実績の概要 |
本研究は、OUPが編集発行するThe Complete Works of James Shirley に収録予定の喜劇 The Brothers(1641)の校訂本の完成を目的としている。平成21年以来、当喜劇の編集者として研究と出版準備を続け、「作品本文の編纂」はすでに終了している。平成29年度からは、当該作品の「イントロダクション」の完成を目標に据え、最終的な締め切りである平成31年度末を目標としている。 平成29年度は、当喜劇の印刷・出版に関する考察を改めて進展させた。書誌学および書物史の観点から、1653 年に出版された古版本研究を中心課題に据え、ESTC や DEEP といったデータベースを駆使しつつ、本作の印刷を請け負った印刷所の特定(現在は「推測」のみ)や、各ページの印刷技術に特化した議論、さらに出版者であったRobinson や Moseley たちの当時の活動状況のリサーチを行った。 また同時代の他の劇作家(シェイクスピアやトマス・キッド)の戯曲への考察も深め、論文をまとめた。またこの時代の上演史として、R.Bailey のStaging the Old Faith: Queen Henrietta Maria and the Theatre of Caroline England (2006)などを参考にしつつ、同時代人(例えば Samuel Pepys など)の日記等、同時代以降の様々な歴史記述をひとつひとつ探索した。シャーリーという劇作家と彼の作品群全体の批評の歴史については、最近優れた論文集が出た。B.Ravelhofer が編集した James Shirley and Early Modern Theatre (2016)がそれで、13人の研究者による優れた論考が収められており、これも活用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
夏の期間に思うように時間が取れず、英国での実地調査に出掛けられなかったこと。
また作品の創作年代と時代背景の探究には17世紀前半から中盤にかけての幅広い歴史的考察が含まれ、とりわけ多くの示唆を与えてくれるであろう研究書が以下のもの―Gerald Eades Bentley が編纂した The Jacobean and Caroline Stage: Dramatic Companies and Players (OUP,1968)の全7巻。本書は大変有益であるが、この資料を充分に読み解くことが出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、本喜劇の本文に付加する「注釈」の執筆と、作品理解を傍証的に補完する意味で設けられる「巻末付録」の完成を目指して取り組む。
「注釈」は現代校訂本を利用する現代の読者に向けて、初期近代の難解な語句やフレーズの意味を解説することが大きな役割となる。17世紀半ばというやや古めかしいオリジナルな英語を読み解くには、現代英語で置き換えるとどんな言い回しになるかなど、スペリングや語彙、文法の細かい説明が必要不可欠となる。そのためには、英語世界でもっとも権威のある Oxford English Dictionary の使用が欠かせない。近年では、これがデータベース化されており、慶應義塾の図書館ではこれが利用可能なため、これを最大限活用しつつ正確な語句の意味を分かりやすい現代英語に置き換えて掲載する。また芝居という作品の性質上、登場人物の心の動きや発話の正確な意味、また舞台上での役者の位置取りを示す「ト書き」についての説明や、シャーリーの他の作品との類似や相違なども示唆する。
「巻末付録」は、本作の一層の理解に資する情報をオリジナルのまま提供し、「イントロダクション」で議論した内容を補足するために歴史的文書や記述をそのまま掲載するものである。いくつか例を挙げると、本作が収録された Six New Plays(1653)には、当時の有名な貴族 Thomas Stanley への献辞が付されており、これには本作の背後にある重要な歴史的意味がある。そのため当該戯曲の「本文」では無いものの、付録に収録して現代の読者に提供したいと思っている。また本作には、1646 年刊行の Poems に掲載された箇所との重複箇所もあるため、Poems の古版本から当該箇所をオリジナルなまま付録に収める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、予定していた英国での海外調査がやむを得ず実施できず、旅費として充当していた研究費を消化できなかった
次年度は海外渡航可否の可能性も含め、未使用額と併せて、より一層、着実かつ堅実な研究費使用を心掛ける予定。
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