研究課題/領域番号 |
17K02516
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
井出 新 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (30193460)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 英文学 |
研究実績の概要 |
フランシス・ウォルシンガムの庇護について本研究の目指すところは、彼の人脈ネットワークがどのように形成され、どういう作家や政治家たちによって継続的に維持されていくかを示すことでもある。本年度はウォルシンガムに連なってくる詩人トマス・ワトソンと秘書官ニコラス・フォントに焦点を当て、パーカー・ライブラリーに存在するケンブリッジ大学コーパス・クリスティ・コレッジのロバート・ノーゲイト学寮長が記録していた帳簿を丹念に調べた。ウォルシンガムが介入した教員斡旋をめぐる訴訟、或いはウォルシンガム批判のバラッドを作成した学生の処分など、いくつかの資料を綿密に調査することで、学生や教員への人脈ネットワークを再構築した。 それではそのネットワークがどのような形で詩人を庇護し、詩人の活動に影響を与えたのかという点については、ワトソンがウォルシンガムの死後出版した追悼詩集Meliboeus (1590)の分析によって庇護関係をあぶり出しつつ、さらにはワトソンの友人で劇作家のクリストファー・マーロウ、そしてウォルシンガムの親類でマーロウのチューターであった人物の関係性を読み解くことによって、庇護関係がどのような形で浸透していたのかを調査した。その結果、Meliboeusだけでなく、マーロウの劇作品で卒業後すぐに上演されたと思われるDido, the Queen of Carthageにも、ウォルシンガムの政治的姿勢を支持する言説が現れていることを確認したことは重要な発見である。今後はその点に関してさらなる調査と研究を行い、庇護と詩人とのダイナミックな関係性を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
庇護関係やネットワークに直接関連する新しい一次史料については、大学図書館や地方都市の古文書館に残されている裁判記録、会計簿、出納簿など、まだ手の付けられていない様々なタイプの史料を調査しているが、これまでの調査によって比較的網羅的に調査することができている。ただ、こうした史料は電子化されているわけでもなければ、出版物として公にされているわけでもないため、新しい史料を見つけだすためには、実際に古文書館へ赴いて史料調査を行う他に方法はなく、新しい史料が見つかれば、その解読や調査に時間がかかることも予想される。したがってこまめに継続的に史料をチェックしつつ、すみやかに調査を行っている必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の中心となるのはウォルシンガムとの庇護関係で取り上げる詩人・劇作家、すなわちワトソンとマーロウの作品分析である。特にHecatompathia (1582)とTamburlaine the Great (1587)を読み解き、戦時下における文化的・政治的な軍事化の中で、彼らが枢密院に対してどのような連帯を見せたのか、またウォルシンガムは作品に対してどのようなイデオロギー的コントロールを行っていたのかを分析する。 またウォルシンガムとクライアントの動向を詳細に把握するためState PapersやActs of Privy Councilに残された書簡・議事録を渉猟する。当初の計画通りに進まない場合は、史料の量が多いCorpus Christi College Archiveの史料に絞って調査する。
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