研究課題/領域番号 |
17K02516
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
井出 新 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (30193460)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 英文学 / 西洋史 |
研究実績の概要 |
この研究は、16世紀イングランドの枢密院顧問官フランシス・ウォルシンガムの庇護を具体的に明らかにすることである。具体的には、ウォルシンガムが枢密院において果たしていた主導的な役割を検証した上で、詩人や劇作家にどのような恩恵を与え(逆に拘束を課し)たか、また、その庇護によってどのような社会的ネットワークがクライアントの間に構築されたか、という問題を、これまで殆ど顧みられることのなかった一次史料に基づいて考察することである。 今年度は、昨年度に引き続き、大学図書館や地方都市の古文書館に残されている裁判記録、会計簿、出納簿など、まだ手の付けられていない様々なタイプの史料を調査した。特にウォルシンガムとの庇護関係で取り上げる詩人・劇作家、すなわちワトソンとマーロウの1580年代における関係性について絞って調査を行った。その結果、マーロウのウォルシンガム下での活動に関する具体的な内容が分かってきたため、現在それを論文に纏めているところである。 また同時に、ウォルシンガムの庇護の対象となった詩人・劇作家の作品分析、特にMeliboeus (1590)とTamburlaine the Great (1587)を読み解き、戦時下における文化的・政治的な軍事化の中で、彼らが枢密院に対してどのような連帯を見せたのか、またウォルシンガムは作品に対してどのようなイデオロギー的コントロールを行っていたのかを分析した。この成果についても現在、論文に纏めている最中であるが、Tamburlaineからの分析を先に行っているため、Hecatompathia (1582)に関する分析は、31年度に分散させる形でペース配分を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
庇護関係やネットワークに直接関連する新しい一次史料は、電子化されているわけでもなければ、出版物として公にされているわけでもないため、新しい史料の発見には実際に古文書館へ赴いて史料調査を行う他に方法はなく、継続的な現地調査が必要となる。そのため、比較的アクセスのしやすい史料から調査を進めているものの、なかなか決定的な資料に出会う機会は少ないというのが現状である。 そうした中でも詩人たちに対するウォルシンガムの庇護関係を裏付ける資料は少しずつ集まっているので、それをもとに論文を纏めているが、確固たる裏付けを得るための資料がまだまだ足りていない。そうした資料を補うのには時間がかかるため、全体としてはやや遅れているという判断をせざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
上記のマニュスクリプト調査の進捗状況を見定めながら、ある程度見通しのついた段階でさらに少しつづ調査範囲を広げていく。具体的にはウォルシンガムとそのクライアントの動向を詳細に把握するためState PapersやActs of Privy Councilに残された書簡・議事録を渉猟する。当初の計画通りに進まない場合は、史料の量が多いCorpus Christi College Archiveの史料に絞って調査する予定である。Meliboeusに関する調査がある程度成果を収めた段階で、クリストファー・マーロウ及びトマス・ワトソンらの詩人・劇作家と顧問官ウォルシンガムとの庇護関係に関する周辺的な一次史料と二次史料の収集・調査にある程度区切りをつけて、論文を纏めることに専念する。 これまでの資料を纏めて論文を纏めるには、まだ数年の時間が必要になると思われるが、できるだけ臨機応変に、纏められる部分からまとめ、論文を完成させていきたい。
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