枢密院顧問官ウォルシンガムが、ケンブリッジ大学のコーパス・クリスティ学寮に対して行った寄付やポスト斡旋の史料を時期限定的に調査した。具体的には、ウォルシンガムがコーパス・クリスティ学寮の学生や教員に対して行っていた政治的・経済的支援の実態を、パーカー・ライブラリーに残されている学寮長ロバート・ノーゲイトの帳簿から跡づけることができた。それによって、パトロンの周囲に文人クライアント(特にジョン・ハリントン、ニコラス・フォント、クリストファー・マーロウ)が集結し、人脈ネットワークが形成され、それが継続的に維持されていく様子を比較的短い期間の調査と研究で明らかにすることができた。 現在、その成果を英語論文数本に纏めているが、詩人の庇護に関して手薄であった個別の詳細な事例に光を当て、とりわけ権力中枢の枢密院顧問官ウォルシンガムと詩人・劇作家の事例に特化する点で、16世紀英文学研究の先端的な研究として位置づけられる。一次史料に窺える一つ一つの事例を積み上げることで、従来の文学研究者が着目してこなかった人脈ネットワークの広がりや継続性、或いは詩人の創作に対する影響力を検証し、庇護制度の有り様を浮き彫りにした点に大きな特色がある。さらに本研究は歴史的調査手法をその土台に据え、新しい一次史料の掘り起こしに大きな比重を置いているため、これまでの文学研究が明らかにできなかった庇護関係の実態に迫ることができた。
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