研究課題/領域番号 |
17K02517
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
迫 桂 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 准教授 (60548262)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ageing / care / dementia / gerontology / fiction / narrative |
研究実績の概要 |
本研究は、下記のテーマに沿って構想されている。 ①認知症の文学的語り、②認知症の文化的意味、③児童向け絵本における老い、認知、感情④現代文学における老い、ジェンダー、ケア
研究期間1年目の平成29年度は、研究計画に沿い、①認知症の文学的語りの研究を最優先に遂行した。特に、国外共同研究者との共著の研究と執筆を精力的に進めた。この成果の一部を5月と12月に国際学会で発表した。内容はそれぞれ、家族の歴史がテーマの小説における認知症の表象、絵本における認知症であった。前者は、認知症の物語が世代継承の文脈で語られる作品が多いことに注目し、それらの作品における認知症の表象を時間という側面から分析した。主体と時間についての一般的概念を見直し、それが病いと生きる時間をいかに疎外しうるかを明らかにした。後者は、上記③とも関連している。認知症についての子供向け絵本は、大人の視線から子供に認知症を紹介するテクストである。複数作品の分析により、子供に病いや死を伝える意図と、子供を恐怖や不安から守る意図とが緊張関係にある点が共通要素として認識された。また、視覚と言語が混在する絵本の形式特性がこの緊張関係の表出に貢献していることを明らかにした。 以上に加え、④の研究作業も行った。9月に一部成果(Michele Robertsの小説を老いとジェンダーの視点から分析)を国際学会で発表した。また、イギリス現代文学において老いを描いた先駆的作品、Doris LessingのThe Diary of a Good Neighbourをジェンダーとケアの視点から考察し、論考をまとめた。さらに、近年老いを描く作品を複数発表しているMargaret Drabbleの作品についての研究を開始した。3月にケンブリッジ大学図書館にDrabbleから寄贈された資料のごく一部を調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記①の共著の研究及び原稿作成が遅れている。本の半分の章はほぼ完成に近い状態であるが、他の章の推敲作業が終わっていない。遅れた理由の一つは、理論的枠組みを強化すべく、さらなる文献購読を行い、推敲を重ねたためである。また、研究代表者及び共著者がそれぞれ別の研究課題を一定の期間内に遂行する必要があったことも、遅れの原因となった。しかし、研究代表者が行った別の研究とは、上述の④にあたり、①と関連する内容である。この研究成果を出版できる可能性があったため、投稿締切に合わせて、優先的に遂行した。
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今後の研究の推進方策 |
上記①の原稿を早期に完成させることを目指す。研究計画の時期的修正を要することになるが、これは本研究課題の中心的なもので、学術的、社会的意義も潜在的に高いため、優先する意義があると考える。
予定通り、④を継続する。具体的には、上述のDrabble作品の研究を深める。Lessingの小説作品と合わせ、老いとジェンダーの視点からの作品研究を論考として書き上げたい。
さらに予定にあるように、③に取り組む。認知症言説の文化的側面と文学形式の特性をより深く理解するために、日本の作品を扱い、比較文化の視点を拡充する計画である。
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