研究課題/領域番号 |
17K02519
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研究機関 | 白百合女子大学 |
研究代表者 |
岩政 伸治 白百合女子大学, 文学部, 教授 (90349142)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 汚染の言説 / 核なき世界 / 人新世 / エコクリティシズム |
研究実績の概要 |
令和1年度に実施した研究成果の具体的内容は以下の通りである。 平成30年度に行った研究で注目した①テリー・テンペスト・ウィリアムスが『大地の時間』で示唆した"reenactor"という概念/行為体が、歴史上の出来事を、その時間と場所に居合わせた歴史上の人物に成り代わって再現して見せる行為体を指すこと②この概念/行為体がそれゆえ、汚染の言説が持つ「時限的な制約」という課題を補完する可能性があること、の2点について、令和1年度では、「歴史的再現」(=historical reenactment)という行為と「歴史的再現の行為体」(=historical reenactor)との関係から考察を試みた。具体的には歴史学の分野で行われている「歴史的再現」とその「再現者の行為」についての再評価のあり方を「汚染の言説」のディスコース分析に援用することを試みた。 今回得られた収穫は、歴史的再現の再評価、すなわち歴史学の成果を社会に接続する上で、歴史を「再現」するという行為が有効であるという考えが、歴史の範疇を超えた様々な言説についても普遍的に当てはめられうることであり、この点を踏まえて「汚染の言説」として取り上げた様々な言説形態の考察を試みた。具体的にはオバマ元大統領の「核なき世界」「広島スピーチ」の二つの演説、ウィリアムスのクリエイティブ・ノンフィクション『大地の時間』、そして、こうの史代のまんが『夕凪の街・桜の国』を概観することで、歴史的再現とその再現の行為体という関係を、二つの可能性、再現の行為体を人間から環境に拡張しうること、また文学的再現とその再現の行為体との関係にと発展的に考察しうること、を見出したところである。また学際的研究が盛んなスタンフォード大学の客員研究員に応募、招聘の機会を得、様々な分野の研究者と当該研究の試みについて意見交換を重ね、有意義な知見を提供いただいた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
補助事業期間延長の申請時に述べた通り、研究遂行のため昨年度後期よりスタンフォード大学で在外研究の機会を得たが、1.直前まで学長特別補佐の任にあり、渡航前の準備が十分ではなかったこと、2.研究成果発表のために学術誌の編集及び論文の寄稿を準備中であるが、執筆方針と内容のすり合わせにおいて、編集委員の間で意見の調整に時間を要したこと、3.コロナウイルスの問題でスタンフォード大学はキャンパスを冬学期の途中から春学期を経て夏学期終了まですべて閉鎖、州からは外出禁止令が出され、大学内の研究会開催など学際的な意見交換を求める場所が著しく制限されてしまったため。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で示した通り、研究推進の場としてスタンフォード大学の客員研究員に応募、招聘を得たが、コロナウイルスの感染爆発とそれにともなう州の外出禁止令によりキャンパスが封鎖され、授業のオンライン化は決まったものの、研究者同士が研究会を企画立案したりカンファレンスに参加したりという研究活動が「物理的」には現在のところ不可能な状況にある。また2020年7月にマサチューセッツ州で開催予定だったアメリカ・ソロー学会年次大会での研究発表に昨年末応募、採択されていたが、この大会も1年間の延期が公式に発表されたところである。対応策として、以下の2点を検討中である。 ①研究者メーリングリストの立ち上げ 現在スタンフォード大学ではグローバル・スタディーズ、ヒューマニティー、イースト・エイジアン・スタディーズのカテゴリーからカンファレンスや研究会の案内を受け取っているが、それぞれのカテゴリーに属する研究者との横の繋がりは、個人レベル以上のものは存在しなかった。研究の場を求める人々の国籍が毎年50カ国を超えるといわれるスタンフォード大学において、現在の限られた状況でこうした研究の人的リソースを最大限活用するには、研究者同士からなるメーリングリストを立ち上げ、双方向の意見交換を可能にすることが必要である。 ②研究者同士による自主的ビデオ会議の主催 上記メーリングリストを活用し、研究者内同士で自主的にビデオ会議などを主催、研究の進捗状況を検証する場を設ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
以下の三点が主な理由として挙げられる: ①想定していた国際学会への応募が一部受理されなかったこと②在外研究のために想定していた出費が予想を下回ったこと③コロナウイルスのパンデミックによる影響で春休みに予定していた学会参加やリサーチのための出張を行わなかったこと 次年度はコロナウイルスの問題が終息に向かい、各研究機関が再開されることを期待して、①海外での施設利用や資料収集にかかる費用、②主に北米における学会参加や研究会の開催などで必要とされる費用、を使用計画として考えている。
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