研究実績の概要 |
本研究は総じて、被爆者がこの世を去った後もその記憶が「終わりなき物語」を創造し、次世代に語り継がれるとするオバマ氏の広島演説に着想を得、原爆文学や詩、マンガなどに見られる被爆(汚染)の言説の分析を通してその可能性のあり方について探求してきた。エコフェミニスト、Terry Tempest Williamsのエッセイに見られる修辞的戦略を手掛かりに、彼女が提示する「歴史の再演」という行為を、歴史教育上有効な手段とされる「歴史的再現」の修辞的戦略として位置付けることを試みてきた。2022年度は国際会議やワークショップに参加、UCアーヴァイン校で国際交流基金と共催された国際会議、"Earth, Kin, Care Conference"の発表パネルに応募し採択された。被爆の言説を語り継ぐ可能性を、「歴史的再現」と、「加害者」「被害者」の二項対立を避ける語りの在り方としての、"middle voice"(中動態)に見出したことを報告した。またドミニカン大学のワークショップに参加、福島原発事故に関連した詩の創作や英訳を手掛けるハリブスキィ教授の元、創作による歴史の「再現」の可能性について議論した。執筆は、前年度に開催した環境人文学に関するオムニバス授業の成果を発展させた研究論集『パンデミックの言説』を12月に刊行、責任編集を務め、論文も寄稿、新型コロナウイルスによるパンデミックが、地質年代区分上、人類の生命活動の痕跡を含めざるを得ないとする人新世に特有のパンデミックであること、またその類型を、パンデミック映画に見出した。翌年2月には『ヘンリー・ソロー研究論集』に「ウィリアムスの国立公園の描写に見るソローのダブル・ヴィジョンとリエンアクトメント」と題した論文が掲載(査読論文)された。この中で、アメリカにおける、語りによる歴史の「再現」の類型を19世紀の思想家ソローの作品に遡及して論じた。
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