研究課題/領域番号 |
17K02523
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
玉井 史絵 同志社大学, グローバル・コミュニケーション学部, 教授 (20329957)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 英米文学 / 19世紀 / 教育 / 共感 |
研究実績の概要 |
当該年度は、当初の研究計画では2018年度に行う予定であった1850年から1870年までの期間の研究を中心に、研究課題である19世紀における文学と教育に関する研究を行った。ディケンズの『非商用の商人』(The Uncommercial Traveller)における、作家の読者に対する共感の教育とその限界や、作家の労働者階級に対する教育感について、第2次選挙法改正と民主主義の拡大という歴史的コンテクストのなかで検証した。この成果については2020年度出版予定のディケンズ没後150周年記念論文集に発表予定である。 前年度より取り組んできた論文は「学校と墓地――『ニコラス・ニクルビー』と『骨董屋』における共感の教育(1)」(『コミュニカーレ』第9号:2020年3月、pp.21-40)にまとめられた。この論文では、ディケンズ初期の作品『ニコラス・ニクルビー』(Nicholas Nickleby)における犠牲者としての子どもの表象に着目し、ディケンズがいかに公教育を批判し、それに代わる作家の役割を定義したのかについて論じた。ディケンズがこの小説の中で展開した学校教育批判は、学校の枠を超え経済釋種にもとづく資本主義の非人道性にも及ぶものであったが、それに代わる教育として提示される作家による共感の教育は、あくまでも労働者階級の脅威を抑制するものであったというのが本論の主旨である。 上記の二つの論考は共に、〈共感〉を軸に作家の教育的役割を論じている。当初の研究計画にはなかった概念であるが、今後の研究においても鍵となる概念として、研究を深めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本申請研究課題開始年度からの遅れを取り戻せないでいるために、計画からは遅れた状態にある。当初の研究計画では、ディケンズ、ギャスケル、ギッシングが活躍した1830年代から1900年代までを、便宜上1830年代後半から1850年まで、1850年から1870年まで、1879年から1900年初めまでの3つの期間に分類し、それぞれ平成29年度、平成30年度、令和元年度に研究を行い、残り2年間で総括を行う予定であったが、それぞれの期間の論考がまだ十分に深められていない。また特に、ギャスケルに関しては、この3年間は研究成果がなく、残り2年でこれまでの成果を総括をしつつ、ギャスケル論を発表していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本来は総括のための時間であった令和2年度は、過去3年間の研究で手薄となっていたギャスケル研究に本格的に着手したい。また同時にディケンズの初期小説における共感の教育についても論考を深め、最終年度の総括へとつなげていきたい。具体的には以下の2点に取り組む。
1)「学校と墓地――『ニコラス・ニクルビー』と『骨董屋』における共感の教育(2)」の後半部『骨董屋』(The Old Curiosity Shop)に関する論考を完成させる。『骨董屋』には『ニコラス・ニクルビー』における学校とは対照的に、穏やかな教師のいる村の学校が描写される。こうした学校の表象と主人公ネルの人物造形に注目しつつ、ディケンズがいかに共感にもとづく教育という、作家の役割を確立していったかを考察する。 2)ギャスケルの『北と南』(North and South)には、文学を学ぼうとする工場主が登場する。工業化、都市化が進展する社会の中でギャスケルが文学と教育の役割をどのように定義したのかを、ギャスケルの夫ウィリアムのメカニックスインスティテュートでの活動とも関連づけて分析し、論考をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の遅れから、十分に書籍を収集できなかったことと、校務が重なったために日本英文学会などのいくつかの学会に出席できなかったことで、余剰金が生じた。次年度以降、書籍の購入と学会参加旅費として使用する計画である。
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