研究課題/領域番号 |
17K02524
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
板倉 厳一郎 関西大学, 文学部, 教授 (20340177)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 現代イギリス小説 / 世界的内戦の表象 / テロの表象 / トラウマの表象 |
研究実績の概要 |
2017年8月23~26日にヘルシンキ大学で開催されたヨーロッパ比較文学会(ENCLS/REELC)第7回大会において、"Fear, Security and the Messianic in the Postsecular Age: David Mitchell’s The Bone Clocks"を発表した。これは、デイヴィッド・ミッチェルの『骨の時計』においてポスト世俗化時代の「メシア的なもの」の希求がいかに表象されているかを論じたもので、有益なフィードバックを得られた。 『現代イギリス小説の「今」』(彩流社、2018年)では2章を担当し、そのうち第7章「記憶をなくす、つなぐ、でっちあげる──マッカーシー、シャムシー、ミエヴィル」(pp. 229-269)では、カーミラ・シャムシーの『焦げ付いた影』における世界的内戦表象についての研究成果の一部を公表した。 これに加え、Topography of Trauma (Brill, 2019)の1章になる"Writing Trauma, Writing Modern: Nadeem Aslam’s The Wasted Vigil and Atiq Rahimi’s The Patience Stone"を校了している。これは、ナディーム・アズラムの『かなえられぬ祈り』とアティク・ラヒミの『悲しみを聴く石』を比較し、アフガニスタンにおける苦しみやトラウマの経験を西洋言語で表現するために、両作家がいかに西洋モダニズム文学の手法を利用しているかを論じたものである。前年度には投稿済みであったが、その後出版社が変更になり、加筆修正の機会を得て手直しを加えることができた。 なお、学術的なものではないが、『三田文學』2018年春季号の座談会「今、ここにあるイギリス小説」(pp. 98-117)でも、研究成果の一端を公表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2017年度前半は研究発表"Fear, Security and the Messianic in the Postsecular Age: David Mitchell's The Bone Clocks"を発表し、有益なフィードバックを得ることができた。また、共著の原稿を校了するなど順調に研究が進んでいた。 ところが、2017年度末に体調不良となり、これまでの発表原稿を論文にすることができなかった。また、2018年度に予定していた国際学会「現代文化におけるノスタルジア」(南デンマーク大学)での口頭発表 "Polynices Dreaming: Home and Nostalgia in Kamila Shamsie's Home Fire"も、すでに選考を通過していたものの辞退せざるを得なくなった。このような事情により、予定よりも遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
上述の体調不良のため、国際学会での発表が難しくなったので、これまでに発表したナディーム・アズラムの『盲目の男の庭』論やデイヴィッド・ミッチェルの『骨の時計』論を論文にして投稿する計画である。口頭発表することはできなくなったものの、カーミラ・シャムシーの『ホーム・ファイアー』論にも着手したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会参加費・渡航費が高額になることを見越して計画を立てていたため、若干端数が出た。余剰分は研究書籍購入等に使用する予定である。 2018年度は、まず2018年1~3月に予定していたナディーム・アズラムの『盲目の男の庭』論とデイヴィッド・ミッチェルの『骨の時計』論の執筆と投稿を目指す。研究発表から時間が経過したこともあり、当時確認が充分とは言えなかった宗教的テーマの検討にも時間をかけたい。これらを実現するため、現時点では主に研究書や資料の購入に研究費を使う予定である。現時点では具体的に計画できているわけではないが、必要であれば専門家(とりわけアズラムに影響を与えたイスラームやウルドゥー語・ペルシャ語文学)に専門的知識の教授を依頼することも検討したい。
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