本研究では、17世紀英国の女性作家キャサリン・フィリップスとアフラ・ベーンによるオウィディウスなどの古典作品や、ジョン・ダン、エイブラハム・カウリーなどの同時代の作家たちのキャノン(権威的作品)のジェンダー的視点からの書き換え作業に焦点を当てた。最終年度の2019年度はこれまでのフィリップスとベーンに関する研究成果をまとめるために発表と出版を行った。また、本研究を今後発展させるために、データベース非公開の資料を閲覧する目的で2月から3月にかけてBritish Libraryへ調査に赴いた。 本研究全体の実績としては、まず、フィリップスの作品に見られるジョン・ダンの奇想の影響を考察する研究発表をアメリカで開催された学会で行い、フィリップスとダンの詩に見られる太陽の表象を中心に類似点と相違点を分析した。また、フィリップス及びベーンに影響を与えたと思われる同時代のカウリー、17世初頭のエミリア・ラニヤー、共和制時代から王政復古期に活躍したマーガレット・キャヴェンディッシュの共通点や擬人性の用い方を分析し、研究発表および論集の出版を行った。ラニヤーはフィリップス及びベーンの先駆け的存在であり、キャヴェンディッシュは二人の間の空白期の懸け橋的存在となるため、17世紀女性作家の系譜として連続性が生まれた。 アフラ・ベーンについては詩におけるセクシュアリティの描写において、これまで論じた古典作品からの影響に加え、シェイクスピアのソネット集との類似性を研究し、オープンセミナーにて発表を行った。 最後に発展的研究として、フィリップスの詩に見られる天日取りレンズの奇想に着目し、古代ギリシアから中世を経て初期近代へと受け継がれた伝統的奇想をフィリップスが利用していることを発表にて明らかにした。これについては今後論文発表、さらには書籍の出版へと繋げ、研究を発展させる予定である。
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