イスラエル=アメリカを繋ぐ作家の各論として、イスラエル系アメリカ人女性作家Nicole Kraussを取り上げ、彼女の長編第3作Great Houseにおけるホロコースト3世作家ならではのホロコースト表象について「喪失を型から起こす」というタイトルで、日本アメリカ文学会関西支部大会シンポジウム「アメリカ文学における触覚的身体の変容――「接触」と「接続」をめぐって」で発表した。ホロコーストという経験を書く必然性と、その筆舌に尽くしがたい出来事を直接的に経験していないのに書いてよいのかという躊躇いのジレンマに挟まれる3世の表現について、ホロコーストを直接描かずに周辺を書き空白にすることによって逆説的にホロコーストを浮かび上がらせるKraussの手法について考察した。 本研究課題の中心となる作家はイスラエルのエトガル・ケレットであるが、彼はホロコーストサバイバーの両親を持つホロコースト2世である。ケレットはクラウスの前夫Jonathan Safran Foerと親友であるが、Foerもホロコーストサバイバーを祖父に持つ3世であり、この3人はサバイバーの子孫という点で共通し、現在居住している国こそ異なるが、ルーツを共有しているという点で強い共感を持っていることがうかがえる。本論は、所属している国家の違いを超えてサバイバーの子孫ならではのユダヤ的詩学を考察するための一歩となった。 ここから展開してFoerやアメリカのユダヤ系作家Daniel Mendelsohnへと射程を伸ばしていく予定である。
|