研究課題/領域番号 |
17K02529
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研究機関 | 福山大学 |
研究代表者 |
中尾 佳行 福山大学, 大学教育センター, 教授 (10136153)
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研究分担者 |
地村 彰之 岡山理科大学, 教育学部, 教授 (00131409)
佐藤 健一 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 准教授 (30284219)
川野 徳幸 広島大学, 平和センター, 教授 (30304463)
大野 英志 広島大学, 文学研究科, 准教授 (80299271)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Chaucer / The Canterbury Tales / Hengwrt写本 / Ellesmere写本 / Adam Pinkhurst / 編集方法 / 話法の構造 / テクスト批評 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、G. チョーサーの『カンタベリー物語』(The Canterbury Tales)の2つの代表的な写本とそれに対応する2つの代表的な刊本を取り上げ、4テクストのデジタル・パラレルコンコーダンスを精査し、チョーサーの本文批評に貢献することである。2つの写本は、当該作品80余写本のうち最も注目されているHengwrt (以下、Hg)写本とEllesmere (以下、El)写本、2つの刊本は、Hgに忠実に基づくN. Blake, ed. (1980) The Canterbury Tales, Edward ArnoldとElに依拠したL. D. Benson, ed. (1987) The Riverside Chaucer, OUPを取り上げた。 4テクストの類似点と相違点を通して、編集方法の違いを語りにおける登場人物の経験の再現、話法に着目して調査した。4テクスト間での話法の表し方を『カンタベリー物語』の中の一つ、チョーサー自らが語る「トパス卿の話」を中心に精査し、その成果を著著、中尾(2018)と論文、中尾(2018)で公表した。2写本・2刊本のデジタルパラレルテクスト(基盤(C)、課題番号26370278で作成)を踏まえ、聴覚依拠(口承性)か視覚依拠(写本を読む行為)かの違いを検証した(研究課題1)。編集方法の違いは、媒体(韻文と散文)において違いが見られることを検証した。従来話法の研究は主として散文である小説で行われてきたが、本調査では韻文における表現特徴の発掘を試みた(研究課題2)。話法は、認知/表現主体の意識の再現に関わり、意味論・語用論的に広がる融合的な研究領域である。Fludernik (1993)やMoore (2015)の研究は語り論を踏まえ、チョーサーの話法を扱っている。その成果を踏まえ、一層体系的なものへと推し進めた(研究課題3)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Hg, El写本及びBlake, Bensonの刊本のパラレルコンコーダンスから明らかになった類似点と相違点を踏まえ、テクスト間に見られる編集方針の違いを、語りにおける登場人物の経験の再現、話法の観点から調査した。主として次の3点を行った。聴覚依拠と視覚依拠のテクスト編集の違い、韻文と散文の編集方法の違い、特に韻律構造と不可分の関係にある編集方法、語り論を踏まえた話法の意味論・語用論的な検証を行った。 4テクスト間での写本レイアウト、言語、句読点等を含めた編集方法の比較研究は、特にチョーサー自身が語り手であった「トパス卿の話」において実践し、中尾(2018)の著書と論文中尾(2018)で公表した。写本レイアウトと活字テクストの関係(写本レイアウトの活字テクストへのパラテクストとしての機能)、句読点の有無と解釈の変異、韻律の問題(頭韻、脚韻、女性韻、チャイミング等)、意味論的に見た視点の設定と曖昧性の問題等、チョーサーの話法に関する先行研究の欠落部を補うとともに、新たな事実を発掘することができた。
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今後の研究の推進方策 |
「トパス卿の話」で実践した成果を、『カンタベリ―物語』の他作品に応用して、一層体系だった研究へと推し進めたい。3点を特に調査する予定である。パラレルコンコーダンスを基に、話法の導入部である伝達動詞の種類と機能(sayde, answerde, cride, quod, etc.)、スピーチの言語指標(呼びかけ、間投詞、修辞疑問文、命令文等)、そして話法の多様性(自由間接話法を含む)を調査する。 上記データを参照して、2写本と2刊本の間で、話法の編集の仕方が、その解釈にどのような影響を与えるのかを、明らかにしたい。写本においては、話者と聞き手の関係性は現代の刊本が示すように一次元的ではない。写本のレイアウト等の活字テクストを補完するパラレルテクストの問題を更に深めながら、チョーサーの話法の特性を精査したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
4テクストの類似点と相違点を話法の観点から比較検討した研究結果を、中世英語英文学に関係する諸学会で発表し、あるいは意見交換する予定であったが、部分的な実行に留まり前年度助成金の残が生じた。 本年度は、前年度の残額と今年度の配分額を合わせ、話法に関する研究成果を(「トパス卿の話」より『カンタベリー物語』全体に広げた調査)、諸学会(海外を含む)で発表ないし意見交換、更には話法の多音声(polyphony)に関する国際的な論文集への投稿・編集に使用する予定である。
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備考 |
Universite Grenoble AlpesのJonathan Fruoco教授とは、多音性(Polyphony)に関して、本年度国際的な論文集の作成に関わっている。
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