研究課題/領域番号 |
17K02530
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研究機関 | 四国大学 |
研究代表者 |
阿部 曜子 四国大学, 文学部, 教授 (60294732)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | グレアム・グリーン / 冷戦 |
研究実績の概要 |
本研究は20世紀をほぼ駆け抜けたイギリス人作家グレアム・グリーンが、冷戦期において東南アジアや中南米諸国の政治的状況と深く関わっていたことに注目し、それらの場所を舞台にした作品や、この時期にグリーンが『タイムズ』紙などのメディアに発信し続けた言説を分析し、文学と政治のインタラクティブな関係を考察するものである。初年度である平成29年度は、予定通り冷戦中期を対象とし、キューバ革命やキューバ危機を中心に、グリーンが冷戦時の政治的な状況にどのように関わっていたかを示す文献資料をイギリスで収集した。また、冷戦フィクション『ハバナの男』(Our Man in Havana)を精読・分析し、考察を行った。詳細は以下のとおりである。 1.キューバ革命やキューバ危機に関するイギリスの新聞記事、及びこの時期にグリーン自身が投書という形でメディアに寄せた記事をロンドンの大英図書館で収集した。 2. 冷戦のターニングポイントの一つでもあるキューバ革命やキューバ危機を巡ってのイギリス政府の外交政策や、グリーンのイギリス政府批判に関する情報を集めるために、イギリス国立公文書館に赴き、今は公開されているが当時は極秘扱いであった外務省関係のドキュメントを閲覧し、可能なものは写真に収めた。 3.得た資料を基に、キューバに関しての冷戦期のグリーンの言説を分析し、さらに『ハバナの男』を冷戦風刺小説として読むことを通して、グリーン自身の冷戦期のスパイ活動についての推察を論文としてまとめた。 4.日本キリスト教文学会の関西支部冬季大会の公開討論会のパネリストとして参加し、グリーンと「日本のグレアム・グリーン」と言われる遠藤周作の影響関係について論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イギリスの大英図書館では、冷戦期(特に1960年代)のグリーンが、キューバをめぐってどのような言説をメディアに発信したかを知る資料を集めることができた。 また、イギリス国立公文書館では、長らく機密扱い、であった冷戦期のイギリス外務省とキューバのイギリス大使館の報告書などの文献を閲覧したり写真に収めることができた。これらは、冷戦期のグリーンの作家活動だけでなくスパイ活動の一端を知る貴重な資料となりうる。 平成29年度末には、収集した資料を基に考察したものを紀要論文としてまとめた。(印刷中)
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、初年度に引き続き冷戦の中期を対象とするが、まず、第三世界が米ソの二大陣営を中心とした冷戦構造の中で置かれた状況などを、21世紀の視点から再検証するというアプローチで文献を読み、理解することに努めたい。 次に、1960~80年にグリーンが中南米諸国を舞台として書いたフィクション、『喜劇役者たち』(The Comedians)と『名誉領事』(The Honorary Consul) の精読を行う。同時にグリーンが冷戦期にハイチやニカラグア、パラグアイ等の国々の政治状況に関して、メディアに寄せた記事などを分析する。 グリーンの第三世界への関わりの考察には、Dermot Gilvary の Dangerous Edges of Graham Greene (2012) 等の知見も参考にしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定の文献書物を買うことができなかったため、次年度への繰越金ができてしまった。この費用は、グリーン関係の近刊予定研究書や冷戦時の文化・文学についての研究書の購入予定に充てる予定である。
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