研究課題/領域番号 |
17K02530
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研究機関 | 四国大学 |
研究代表者 |
阿部 曜子 四国大学, 文学部, 教授 (60294732)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | グレアム・グリーン / 冷戦 |
研究実績の概要 |
本研究は、20世紀を駆け抜けたイギリス人作家グレアム・グリーンが、冷戦時の複雑な政治的状況に深い関心を寄せていたことに注目し、新聞や雑誌などの活字メディアでの彼の言説を調査・分析するとともにその時期に書かれたグリーンの作品を再読・精読することで、冷戦期のメディアと文学のインタラクティブな関係を考察するものである。2019年度に行ったことは以下の通りである。 1.グリーンが冷戦初期に書いた小説『第三の男』と映画との関わりやその表象について「日本キリスト教文学会」全国大会のシンポジウムの中で発表し、機関誌にその論考を執筆した。 2.いまだ謎の多いグリーン自身の諜報活動を、冷戦期の英国諜報機関で最大の事件と言える「キム・フィルビー事件」との関わりの中で調べるためにイギリスに出張し、大英図書館や英国立公文書館で関連する文献にあたった。 3.2で得られた資料を整理しつつ、冷戦時代の世界に作家として向き合うグリーンの姿勢が象徴的に表れている『ヒューマン・ファクター』を精読した。本作品の中で主張されているメッセージは、冷戦を支えていたイデオロギーの二項対立的図式へのアンチテーゼとして、1960年代のグリーンのメディア等での言説に明確に打ち出されていることを示し、論文として発表した。 4.グリーンの影響を強く受けていた日本のカトリック作家遠藤周作が、遺作となった『深い河』の執筆時に、グリーンの『ヒューマン・ファクター』を読み込んでいたことについての比較文学的考察を行い、学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「当初の計画以上に進展している」理由は以下の通りである。 1.予定通り、グリーンと遠藤の比較文学的考察を『ヒューマン・ファクター』と『深い河』の中で行い、全国大会で発表することができた。学会誌に投稿した論文は査読中である。 2.イギリスに出張し、大英図書館と英国立公文書館で、グリーンの冷戦期の言説を示す資料や、「キム・フィルビー事件」について公開された資料を閲覧することができた。 3.冷戦期の作家としてのグリーンの姿勢を象徴的に示していると思われる『ヒューマン・ファクター』を精読し、それに関わる資料も探すことができ、論考としてまとめたものが、学会誌に掲載された。 4.グリーン作品の視覚表象としての映画について、シンポジウムで話す機会が得られたので、冷戦初期の世界を背景とした『第三の男』について考察し、発表、論文として表すことができたが、これは当初の計画にはなかったことであった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、中南米を舞台としたグリーン作品の精読・分析、及びこの時期のグリーンの政治的関心について調査し考察することを試みたい。 具体的には、1970年代前半を中心に、グリーンが関心を持ち訪れた、アルゼンチン、パナマ、チリでの取材活動について調査し、これらの地を舞台にした作品を再読することで見えてくることを考察し、まとめてみたい。 本来ならば最終年度となる2020年度は、イギリスに出張し、確認したい資料等もあったのだが、新型コロナウィルスの感染拡大により混迷を極める世界情勢を考えると、渡英は困難であることが予想される。さらに大学での教育等の業務も、大幅に変更が求められているため、日程的にも不透明な部分が多い。今後の状況を見定めつつ、場合によっては1年の延長も考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
イギリス出張の滞在期間を当初の計画より短くし、集中的に調査を行ったため、旅費が予定より少ない金額ですませられたことや、購入を予定していた文献の刊行が遅れたことにより、次年度使用額が生じた。 繰り越しとなった金額は、グリーンの南米での行動を調査するための文献購入費などに充てる予定である。
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