研究課題/領域番号 |
17K02530
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研究機関 | 四国大学 |
研究代表者 |
阿部 曜子 四国大学, 文学部, 教授 (60294732)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | グレアム・グリーン / 冷戦 / メディア / イギリス文学 |
研究実績の概要 |
本研究は、20世紀の後半の複雑な国際情勢の中で、グレアム・グリーンが新聞等のメディアを通じて発信した政治的言説と、同時期に生み出されたグリーンのフィクションの交差を、「冷戦」という文脈で俯瞰するものである。特に研究の最終年度となるはずであった2020年度は、冷戦中期~後期(1970年代、80年代)に焦点を当て、この時期のグリーンが関心を持ち訪れた中南米(アルゼンチン、パナマ、チリ)での取材活動について、渡英してリサーチする予定であったが、新型コロナウィルスの感染拡大により変更を余儀なくされたため、専ら国内で入手可能な資料の分析と作品の精読を行った。2020年に行ったことは具体的には以下のようなものである。 ①グリーンのエッセイや投稿記事を収めたReflections (1990)等から、グリーンが1970年代のクーデター前のチリの訪問前後にメディアに送った記事を抜粋し分析した。 ②アルゼンチン・チリの国境付近を舞台に描いた、グリーンの中編 The Honorary Consul (1973)を精読した。 ③Andrew Hammond, British Fiction and the Cold War (2013)を読み、冷戦時代のイギリス文学が、ポリティカルな事象とどのように絡んでいるか等について理解を深めた。④グリーンが影響を与えたとされる日本のカトリック作家、遠藤周作についての文学事典『遠藤周作文学事典』(2020)のグリーンに関する項目を担当し、執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前述したように、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大により渡英することができなかったため、大英図書館やイギリス国立公文書館で収集する予定であった、1970年代、1980年代の冷戦中・後期にグリーンが中南米の政治的状況に関してメディアに発信した言説の分析が限定的なものになってしまった。また遠隔授業などコロナ感染拡大防止に対応する大学内での業務が多く、研究のための時間が取れにくい状況でもあった。 なお、3月に申請していた補助事業期間の延長が承認されている。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスの感染拡大の状況次第であるが、可能であれば渡英して、大英図書館とイギリス国立文書館に行き、前年度に行う予定であった文献資料の収集にあたりたい。しかし新型コロナウィルスの感染拡大が収拾しないようであれば、可能な範囲での資料収集に努め、1970年代~1980年代の冷戦中・後期にグリーンがアメリカや中南米に向けていた眼差しが、メディアでの政治的言説とフィクションでの表象として、どのように表れ、またどのような関係を切り結んでいったかを考察する。具体的には以下のようなことを行う予定である。 ①渡英できた場合、大英図書館とイギリス国立文書館で、1970年代~1980年代にグリーンがメディアに発信した言説の中から、政治的な状況に関するものを探す。特にアルゼンチン、チリ、パナマなど中南米諸国とアメリカとの関係において、これまでのグリーン研究では発見されていなかったものを見つけ出してみたい。 ②渡英できなかった場合は、国内において入手可能な資料から、冷戦中・後期の世界情勢(特に中南米とアメリカ)について述べたグリーンのメディアでの言説の分析をさらに進めていく。 ③それらのメディアでの言説が、フィクションThe Honorary Consul (1973)に中で、どのような紋様のテクストとして織り込まれているかを考察し、論文としてまとめる。 ④研究の最終年度として、冷戦というコンテクストの中でグリーン文学を見つめ、いかにメディアを戦略的に用いていたかをまとめてみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はイギリスで調査を行うための出張を予定していたが、既に述べてきたように、新型コロナウィルス感染拡大のために海外渡航ができなくなり、使用できなかった出張費用を次年度に繰り越すこととなった。 繰り越された分は、主としてイギリスへの出張費用に、残りは文献購入費用に充てたい。
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