研究課題/領域番号 |
17K02532
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研究機関 | 岩手県立大学盛岡短期大学部 |
研究代表者 |
石橋 敬太郎 岩手県立大学盛岡短期大学部, その他部局等, 教授 (80212918)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エリザベス女王の外交政策 / トルコ / モロッコ / イスラム演劇作品 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、トマス・キッド作の『ソリマンとパーシダの悲劇』(1592年執筆)とトマス・ヘイウッド作の『西の国の美女、第一部』(1600年頃執筆)を対象として、トルコとモロッコがどのように描出されたのかについて、当時の歴史資料や公文書をもとに分析を行った。分析の結果、キッドの『ソリマンとパーシダの悲劇』においては、立法帝としてイングランドにも知られていた歴史上のトルコ皇帝スレイマン一世が法やコーランをも蔑ろにしてパーシダを追い求めるアクションのなかに、エリザベス女王政府が推進する親トルコ政策に対する批判を見出した。また、ヘイウッドの『西の国の美女、第一部』に描出されているモロッコ国王がイングランド人女性べスに示す思いやりと友情のなかに、モロッコをイングランドの友好国とみなすヘイウッドの政治姿勢を見出した。ヘイウッドのモロッコ観は、本劇とほぼ同じ時期に執筆・上演されたトマス・デッカーの作品『欲望の領域、あるいは淫らな王妃』に描かれた信用に値しないモロッコ人としての表象とは異なる視線があることを見出した。当時の歴史資料から、このことは、モロッコをどのようにみなすかに関するイングランドの複雑な見解が映し出されていることを確認した。 トルコやモロッコを信用に値しないとする劇作家たちの姿勢には、ヨーロッパのキリスト教国が同盟し、イスラム世界を打ち倒そうとする風潮も垣間見える。事実、サー・アンソニー・シャーレイなどイングランド人のなかには、ペルシャとの同盟を模索する人物も現れた。ペルシャもネーデルラントに同盟を求め始め、こうした新たな世界秩序を前にした時代の風潮が劇中の反イスラム感情に見い出せることも指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジョージ・ピールの『アルカザールの戦い』(1589年頃執筆)に端を発するイスラム世界を扱った主な演劇作品であるロバート・グリーンの『トルコ皇帝セリム』(1591年頃執筆)、トマス・キッドの『ソリマンとパーシダの悲劇』(1592年頃執筆)やトマス・デッカーの『欲望の支配、あるいは淫らな王妃』(1600年頃執筆)などを歴史資料や公文書をもとに時系列的に論じることができた。分析の結果、これらの演劇作品は、対スペイン外交上、トルコやモロッコを信頼に値するパートナーとして認識するエリザベス女王政府の政治的な矛盾や曖昧さを表していることを見出せた。
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今後の研究の推進方策 |
1603年にイングランドの王位に就いたジェイムズ一世は、翌年にスペインと和平を締結した。この和平協定によってスペインの脅威が払拭されたことにより、イングランドのトルコやモロッコとの政治的関係もエリザベス朝にみられたものから変化を遂げる。すなわち、ジェイムズの外交政策は、ヨーロッパ諸国の地中海貿易の妨げとなっていたイスラム世界の私掠船壊滅とヨーロッパのキリスト教統一に向かい始める。 そのような時期に、イスラム教に改宗したキリスト教徒の再改宗に焦点を当てた演劇作品が執筆・上演された。その主な演劇作品は、ロバート・ダボーン作『トルコ化したキリスト教徒』(1612年頃執筆)とフィリップ・マッシンジャー作『背教者』(1624年執筆)である。このうち、マッシンジャーの『背教者』では、カトリック教徒がイスラム王女をキリスト教徒に改宗させて、結婚する結末が寿がれている。本年度は、改宗が意味するところを当時の歴史資料と公文書を駆使して、動的な解明を試みる。この分析により、ジェイムズ統治期の外交政策の実情の一端を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
図書の注文が遅れてしまったため、次年度使用額が生じた。次年度は、図書費を増額することで対応する。
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