本研究「マーク・トウェイン晩年のユーモア――〈笑いの武器〉による批評精神」は、マーク・トウェイン晩年期研究の一環として、その晩年のユーモアに焦点を当て、〈笑いの武器〉を行使する批評精神を考察する。すなわち、ユーモア作家としてスタートした本作家のユーモアの修辞学における変容と発展を、晩年のユーモアを分析することによって明らかにし、その批評精神の特徴ならびに思想を、芸術活動における自我実現の範囲を超えた社会的な在りようとして提示する。そして、今なお流布する〈暗い作品に色取られた晩年〉像の見直しに貢献する。 実施計画を中心に、以下の内容で進めた。 1.トウェイン晩年の〈ユーモアのセンス〉の定義を「滑稽さを見抜く力、認識力」にあると読解。「〈ユーモアのセンス〉を身につけよ」と、少年サタンに語らせるトウェインに注目。2.その〈ユーモアのセンス〉を、新版『自伝』の口述(1906年3月12日、14日)で行使。米海軍のモロ族大虐殺事件を弁明する米海軍と米大統領を〈笑いの武器〉を使い、語る。3.F・ラブレー著『ガルガンチュアとパンタグリュエル』(宮下志朗訳)全5巻を読み、トウェインがラブレーに魅かれた理由のヒントを探る。トウェインはラブレーほど骨太ではないかもしれぬが、ラブレーとの共振も少なくないと推察。4.新版『自伝』に見るトウェイン晩年の批評精神を考察し、論文「トウェインと著作権――『マーク・トウェイン自伝』に見る著者晩年の批評精神」を出版。5.『まぬけのウィルソン』論を、論文「『まぬけのウィルソン』における人種表象――ジム・クロウ人種隔離法下の創作活動」として出版。6.M・バフチーン著『フランソワ・ラブレーの作品と中世・ルネッサンスの民衆文化』(川端香男里訳)からカーニバル化の概念を援用し、論文「再訪 マーク・トウェイン「ハドリーバーグを堕落させた男」――公会堂のカーニバル化」を脱稿。
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