研究課題/領域番号 |
17K02537
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
小泉 由美子 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (60178556)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エミリ・ディキンスン / 宗教メタファー / 自然神学 / 科学史 / 風景詩学 |
研究実績の概要 |
1. 研究論文1本。"The American Scenery through Dickinson's Window" ピクチャレスク・アメリカの歴史的文脈において、ディキンスン作品「私の窓から見た景観は」(F849)をトマス・コールの有名な絵画「ホリオーク山から見た眺望」と比較・対照すると、ディキンスンの立ち位置が明確になる。コールが山頂から神に近い視点で愛でた風景を、ディキンスンは地上から自室の窓枠を通し、逆アングルから、メタファーで「帆船の浮かぶ海」と描く。コールがパノラマ的展望で描くのに対し、彼女は半支配的、地上的、小動物の視点から彼方の世界を抽象画のように描く。同時代の男性芸術家の作品と比較し、ディキンスンの風景詩学は大きく異なることを証明した。ディキンスンの風景詩学の特異性を解明することにより、同時に19世紀米国東海岸、科学と宗教の相克の時代を生きたディキンスンの宗教観を読解しうる可能性を示した。 2. 書評1本。図書新聞(2018年12月1日号)江田孝臣著『エミリ・ディキンスンを理詰めで読む』を「精緻なテクスト分析の重要性を再考させる書」として評価した。文化研究が主流となりつつある最近のディキンスン研究において、「精読からスタートし、文化研究の成果を取り入れ、最後に再度詩の一行に戻るというスタイルを確立することにより、ディキンスンのテクスト分析はより精密化」されうる可能性を指摘した。 3. 『完訳エミリ・ディキンスン詩集』(金星堂、2019出版予定)において、1864年に書かれた作品群を担当し、宗教解釈を入れた新しい訳を提案した。 4. 2019年8月8日ー11日、米国カリフォルニアで開催されるEDIS国際会議において研究発表予定の原稿(概要)を書き上げ、選考委員会に提出した結果、発表が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 2018年前期サバティカルを取得し、米国ハーバード大学ホートン図書館、アマースト大学フロスト図書館等でディキンスンの宗教メタファー分析を行うための基礎資料の収集と必要な文献抄写をおおむね完了した。 2)19世紀米国東海岸にて、宗教、科学、哲学のレンズが重なり合う点を通して世界を見ていたディキンスンの宗教メタファー分析の鍵は、当時の自然神学に関する議論であることを解明し、同時代の男性芸術家と比較・対照することにより、研究論文執筆を通し、詩人の宗教観を説明できる可能性を見つけた。特に宗教詩において、自然の事物で表象されるメタファー、自然描写の背後に神の存在を示唆する詩人の意思表示に自然神学の影響を見ることができる。 3)『完訳エミリ・ディキンスン詩集』(金星堂、2019年出版予定)において、詩人にとって最も宗教的と考えられている1864年執筆の作品群を担当し、宗教コードを解読し、新しい解釈に裏打ちされた訳を提案した。 4)2019年8月開催されるEDIS国際会議において、ディキンスンの内面風景としての「海」とアマーストの自室の窓辺に広がる自然の庭との密接な関係を解明することにより、19世紀米国において、斬新な技法を通し描かれた彼女のアメリカンヴィジョンを提示する予定である。 5)『私の好きなエミリ・ディキンスンの詩Ⅱ』(金星堂、2020年出版予定)に収録予定である詩分析の論文2本執筆予定である。自然と宗教の密接な関連を当時の自然神学の視点から分析する。
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今後の研究の推進方策 |
1.19世紀米国東海岸における自然神学の議論を当時の科学史の文脈にて理解し、当時の米国の自然観、神学、宗教メタファーとの関係を解明することにより、自然科学の教育を受けたディキンスンが編み出した宗教メタファーの特殊性に迫りたい。"Nature, Theology, and the Metaphors that Bind," "Natural Theology, and Dickinson's Response to Hitchcock's Formulation of Sciences"等の論文を順次執筆予定である。 2.2019年8月8日ー11日カリフォルニアで開催される国際会議にて、ディキンスンの宗教メタファー「海」と自然の庭との関連を同時代の男性芸術家達の描写と比較・対照し、彼女の視点の独自性を究明する研究論文を発表する。 3.『私の好きなエミリ・ディキンスンの詩Ⅱ』(金星堂、2020年出版予定)にて、分析論文2本執筆予定である。 4.著書の中心となるような論文を1本執筆。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった高額な書籍が年度末購入不可能と判明したため、103,739円が次年度使用となった。図書購入に充て、速やかに執行する予定である。
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