研究課題/領域番号 |
17K02537
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
小泉 由美子 茨城大学, 人文社会科学部, 教授 (60178556)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エミリ・ディキンスン / 宗教メタファー / 自然神学 / エドワード・ヒッチコック / ピューリタニズム / 科学史 |
研究実績の概要 |
1. 共著書2冊。1冊は『完訳エミリ・ディキンスン詩集』(金星堂、2019)を出版した。 日本で初めてのディキンスン完訳詩集の最も宗教的と考えられている1864年の宗教詩を中心に宗教コード解読を通し、新しい解釈を提示できた。2冊目は『私の好きなエミリ・ディキンスンの詩Ⅱ』(2020年5月出版予定)において、宗教詩「私の窓から見える景観は」(F849)のテクスト分析を通し、19世紀米国のピクチャレスク絵画の代表的画家、トマス・コールの風景画とディキンスン作品における風景詩学を比較・対照し、彼女の視点の独自性を証明した。つまり、19世紀前半に活躍したコールは当時の国家発揚の気運を察し、山頂から神の視点で「ホリオーク山から見た眺望」を描いたのに対し、ディキンスンは19世紀後半、自室の窓から見える地上からの眺めを描いた。反支配的、地上的、小動物の視点の導入は女性的とも言えるが、同時に19世紀印象派の影響も感じることができる。コールは神話としての庭を描き、ディキンスンは実際の庭に内面世界を投影した。 2.EDIS国際会議での研究発表。2019年8月米国カリフォルニア州アジロマールにて開催されたEDIS国際会議にて"The American Scenery Through Dickinson's Window"という論文を口頭発表した。美術史の視点を入れ、19世紀前期の風景画家トマス・コールと1864年頃書かれたディキンスン作品における風景を比較・対照し、彼女の風景詩学の特異性について研究発表した。特に宗教メタファーとしての「松」の分析に関し、説得力ある議論(論点)とのコメントを複数頂いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.2020年3月にボストン公立図書館とアマストのジョーンズ図書館にて第二次資料の最終確認を完了した。 2.2冊の共著書を執筆・出版し、これまでの研究成果を1部まとめることができた。『完訳エミリ・ディキンスン詩集』は新解釈に裏打ちされた10年間の成果をまとめたものである。また『私の好きなエミリ・ディキンスンの詩Ⅱ』においては時代を切り取るディキンスンの宗教メタファーの分析を通し、詩人の宗教と自然神学に対する考えを明らかにした。 3.2019年8月米国カリフォルニア州アジロマールで開催されたEDIS国際会議にてディキンスンの宗教詩における風景詩学について口頭発表した。 4.ディキンスンの宗教観をより明確に理解するために当時の自然神学の著作、特にエドワード・ヒッチコックによって書かれた代表的著作に対し、詩人が詩作品の中で具体的にどのように反論しているかを分析している。 5.ピューリタニズムと自然神学の密接な関係を探究中である。
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今後の研究の推進方策 |
1.19世紀米国におけるプロテスタント保守派(当時の福音派)と自然神学の密接な関係を当時のアマスト大学の地質学者であると同時に自然神学者であったエドワード・ヒッチコックの著作を通して時代思潮を理解する。ディキンスンはヒッチコックの自然神学者としての立ち位置に違和感を覚え、自身の見解を詩作品の中に凝縮していた。従って、彼女の詩作品を分析することにより、宗教と科学の時代に生きた詩人の宗教観を自然神学というレンズを使って究明したい。 2.著作のフレームとして、19世紀前半の米国東海岸においてピューリタニズムの伝統の中で自然神学が果たした役割を検証する。ディキンスンが学生時代に読んだ主要な自然神学のテクストを解読しながら、それらのテクストと宗教詩との関連、自然描写と宗教的主題との関連を吟味しながら、彼女の宗教メタファーの分析を通し、詩人が科学の時代に宗教の問題といかに向き合い、最終的にどのような結論を導きだしたのかをまとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった書籍が年度内に購入不可能と判明したことにより、残額が生じた。今年度速やかに書籍を購入する予定である。
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