1. 共著1冊。「景観」というメタファーにより19世紀米国のピクチャレスクの時代精神を表象しているF849の分析を通し、19世紀米国東海岸のピクチャレスクツアーの文脈を挿入し、当時の歴史的文脈にディキンスン作品を位置付ける。ディキンスンの風景詩学の特質に焦点を当て、アメリカルネサンス期の代表的作家、画家と比較・対照することにより、同時代の精神の共有と詩人の特殊性を浮き彫りにした。 当時の代表的ピクチャレスクの画家、トマス・コールと比較・対照し、ディキンスンの反ピクチャレスクの姿勢を強調した。またエマスンやソローの「松」の描写と異なるディキンスンの松の描写に着目し、ラスキン、ワーズワースの自然観照を通し神を感知する宗教美学の影響を解明した。 2.研究論文1本。米国における自然神学の頂点とディキンスンの幼年期から青春期が重なるという事実から、当時米国東海岸で誰もが読んだとされる自然神学の児童書から一般書に刻まれたメッセージを抽出し、詩人のメタファー使用の中に、その影響を分析した。ディキンスンが幼年期に読んだと想定される自然神学の児童書、教科書等の内容を理解することにより、彼女の宗教詩を当時の自然科学との関連で解釈することが可能となる。 ダーウインの『種の起源』の出版年、1859年に書かれたF117では、科学と宗教の対立を自然科学の用語と聖書からの引用を並列することにより、ダーウインが米国にもたらした衝撃を詩人は描いている。その後、ディキンスンはエドワード・ヒッチコックの自然神学の説教を通し、宗教と科学の補完性の可能性を探る。自然界の事象を神学的解釈で説明するのを聴き、自然のメタファーを通し生命の神秘を語るイエス・キリストとの接点を見出すこととなるが、最終的には科学に基礎を置いた自然神学では生命の神秘は解読できないという結論に至った経緯を解明した。
|