研究課題/領域番号 |
17K02540
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
大野 美砂 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (30337711)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナサニエル・ホーソーン / トランスナショナル / 『アフリカ巡航日誌』 / 「主として戦争問題について」 / 「ダートムーア老囚人の手記」 |
研究実績の概要 |
本研究は、ホーソーンの文学的想像力が、ヨーロッパだけでなくアフリカや中南米を含むトランスナショナルな影響関係や交流の中で形成されたことを明らかにするものである。平成29年度にはまず、京都産業大学の中西佳世子氏と共に『アフリカ巡航日誌』を翻訳する作業を進めた。年度内に翻訳原稿を完成させることはできなかったが、平成30年度の夏までに翻訳を終え、解説を添えて書籍として出版する準備をしたいと思っている。作業の過程では、アメリカ植民協会の活動、リベリアの実態、当時のアフリカとアメリカの関係についての資料を集め、歴史的背景を知ることもできた。さらに、第一次資料や研究書を使って、19世紀前半頃のアメリカ大西洋岸の海で、商船や海軍の活動と奴隷商人や海賊などの非合法の動きの両方が互いに領域侵犯を繰り返しながら混在していた実態を調査する中で、あるセイラムの名士が1812年の戦争中に私掠船で航海をした経験を記録し、ホーソーンが編集して出版した「ダートムーア老囚人の手記」を見つけた。この手記と『アフリカ巡航日誌』がホーソーンの後の作品に与えた影響を考察した論文「ホーソーンが編集した二つの航海記の海軍言説と『緋文字』」が、平成30年度中に出版される予定である。平成29年度には、アフリカや奴隷制度がホーソーンの作品の中でどのように描かれているのかを理解するために、ホーソーンの作品を分析することも予定していた。研究の成果は、論文「「ナショナルな風景」の解体――「主として戦争問題について」をめぐって」にまとめ、それが論集『エコクリティシズムの波を超えて』に掲載された。また、ホーソーンが子どもを対象にマサチューセッツの歴史を書いた『おじいさんの椅子の全歴史』が重要なのではないかと考えるようになり、この作品の研究を計画に加え、3月には「他者」と「共感」をキーワードに作品を分析する内容の学会発表をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度には、『アフリカ巡航日誌』各章の試訳を最後の数章を除いて作成し、その過程で奴隷貿易やそれを取り締まる海軍の活動、19世紀前半頃のアフリカ西海岸の社会や文化、アメリカとの関係などについての資料を読み、情報を集めることができた。また、ホーソーンが『アフリカ巡航日誌』と同時期に編集した「ダートムーア老囚人の手記」を見つけ、精読し、関連する資料を精査することができたのは、本研究にとって大きな収穫となった。この手記はアメリカにおいてもほとんど研究されていないが、19世紀前半頃の大西洋やカリブ海地域における私掠船や商船、海軍の活動を明らかにするだけでなく、『アフリカ巡航日誌』とともにホーソーンの後の創作活動に影響を与えていると思われるからである。ホーソーンの作品の中にアフリカや奴隷貿易と関連する問題を探る作業については、「主として戦争問題について」を分析した論文が完成したほか、『おじいさんの椅子の全歴史』の研究を始め、作品中で人種的な他者を描いている部分を分析するところまで進んだ。平成29年度の秋には、10日間程度アメリカに滞在し、ボストンやセイラムで19世紀前半のマサチューセッツの航海や奴隷貿易に関する第一次資料を探す予定だったが、大学の仕事の関係で時間をとることができなかった。平成30年度にはアメリカでの資料収集の時間をとりたいと思っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度にはまず、『アフリカ巡航日誌』各章の翻訳を完成させ、書籍としての出版を目標に注や巻末資料、解説のための資料を集め、執筆する作業を進めたい。次に、『おじいさんの椅子の全歴史』についての学会発表の内容を発展させ、論文にまとめたいと思っている。また、『アフリカ巡航日誌』の翻訳書を作成する過程などで明らかになるホーソーンとアフリカのトランスナショナルな関係を踏まえて、ホーソーンの文学作品やエッセイ、書籍などの中にアフリカや奴隷制度、黒人たちと関連する描写を探し、考察する作業を続けたいと思う。さらに、特に平成31年度におけるホーソーンと中南米の接点を探る研究のために、ホーソーンや妻ソファイアの中南米との関係、ハイチ革命やカリブ海地域の奴隷制度、当時の中南米とアメリカの関係がホーソーンに及ぼした影響に関する資料や関連する作品を探し始めたい。平成30年9月には、アメリカで調査と資料収集を行うことを予定している。ボストンを拠点に、ハーヴァード大学図書館、マサチューセッツ歴史協会、ボストン公立図書館、セイラムのピーボディ―・エセックス博物館などで作業をしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度には、10日間程度のアメリカへの出張を予定していたが、勤務校の仕事の関係で行くことができなかった。そのため、その分の旅費を平成30年度に繰り越すことになった。平成30年度秋にはアメリカ出張をして、平成29年度に予定していた分も含めて調査や資料収集を行いたいと思っている。繰り越した助成金は、平成30年度のアメリカ出張において使用するほか、予定よりも一、二回多く国内の学会にも出席し、研究に役立てたいと思っている。
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