研究課題/領域番号 |
17K02542
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
真鍋 晶子 滋賀大学, 経済学部, 教授 (80283547)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | W.B. イェイツ / エズラ・パウンド / アーネスト・ヘミングウェイ / ラフカディオ・ハーン / 能狂言(能楽) / 間 / アイルランド / 詩学 |
研究実績の概要 |
本研究は、従来「笑い」と関連づけられないW.B.イェイツが、「笑い」の演劇たる狂言に劇作の突破口を見出した点を解明し、その新局面をあぶり出すこと、また、日本的原理である「間」の詩学が英語圏モダニズムに果たした意義を、イェイツのみならず、イェイツを能狂言に導いたエズラ・パウンド、さらにパウンドを師と仰ぐヘミングウェイの作品を検討し、光をあてるものである。 初年度には日愛外交関係樹立60周年企画実行委員長として、イェイツとラフカディオ・ ハーン(小泉八雲)の作品の大蔵流狂言の名家茂山千五郎家による新作狂言化を委嘱、アイルランド公演を企画・運営、さらに、狂言の一部翻訳や公演前の講演も行った。2018年度は、 その経験に基づき、招聘講演や、自身が運営企画する国際学会(テーマ「イェイツと笑い」)の基調シンポを含む複数の国際学会で成果発表を行った。 2019年度は、成果発表として国際アイルランド文学協会(ダブリン)、国際イェイツ協会(パリ)での研究発表、イェイツ・サマースクール(スライゴー)でのシアター・ラウンドテーブル、日本の学術書、学術雑誌への論文出版、また、2020年コーク大学出版『イェイツとアジア』に掲載される論文の最終校正、2020年国際イェイツ協会学会誌(online)の特集号へ論文、および、2021年オックスフォード大学出ハンドブックシリーズ(イェイツ)への原稿入稿など本研究の一定の成果を目に見える形で示した。能楽師への聞き取り、能楽の観劇を続け、能楽に関する知見も積み重ねた。 また、滋賀大学の文化企画として、小泉八雲の作品に基づく芸術展、およびその最終日に俳優佐野史郎氏による朗読、書、琵琶演奏のコラボ公演を企画・運営、およびトーク参加。さらに、滋賀県湖東域の名将藤堂高虎に基づく新作能の企画・運営および公演当日の講演と、研究を社会に還元する活動も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「平成31年度研究実施計画」を順調に遂行。 1)研究会・講演会・公演、 2)学会: a)国際学会:i)IASIL(於 Trinity College Dublin; 国際イェイツ協会会長および、久米民十郎共同研究者と3人でシンポ。ii)Yeats Summer School(於スライゴー); アイルランド国立アベイ劇場監督、劇団ブルーレインコート監督と、ラウンドテーブルでイェイツと能狂言について発表、意見交換。iii)International Yeats Society(於Sorbonne Nouvelle);国際学術誌Yeats Reviewに特集号を組む5名のうち3名でシンポ(残り2名もフロアー参加)。b)国内学会: i)IASIL JAPAN シンポジウム「文学と他ジャンルの越境」(台風でキャンセル。事前にメンバー4名で準備と研究交流)。理事として企画・運営。ii) イェイツ協会:理事・学会誌編集者として、企画・運営・査読。iii)日愛協会:事務局長として企画・運営。特に会場地沖縄とハーンに関する研究を深める。c)公演:i) 滋賀大学文化事業「書と言葉と声とー小泉八雲をめぐって」ハーンの文学がいかに空間芸術となるか、また『耳無芳一』の俳優による朗読に琵琶演奏、「書」をコラボし、文学の異次元芸術との交錯を検証。ii)新作能『高虎』:京都の能楽師(シテ方、ワキ方、狂言方、囃子方)による創作過程に関わり、能楽の原理理解を深め、またパウンド、イェイツ、フェノロサが接した演目について聞き取る。3)文献調査・資料蒐集:ダブリン市内図書館、劇場調査。また詩人Paula Meehan, Theo Dorganから聞きとり。イェイツの原点スライゴーを世界的なイェイツ研究者と調査。ヘミングウェイ、パウンド、イェイツに関わるパリの実地調査。国内は小泉八雲記念館、大学図書館他の蔵書や資料、また能楽師を通じて資料入手。4)研究書執筆、発表:口頭発表4回、講演2回、研究書2本、学術誌1本、専門的冊子に1本を論文出版。国際的学術書に3本、国際的学術誌に1本入稿済。査読通過。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成果を次期基盤研究「笑いと鎮魂の詩学:能狂言とアイルランド W.B.イェイツ、小泉八雲、パウンド」に発展させる。イェイツおよび彼に能楽を紹介したエズラ・パウンドが、狂言(笑いの演劇)と能(鎮魂の演劇)を共存させた作品世界を展開していること、その作品を裏付ける詩学の根幹に能狂言から得たものが共存すること、また、その作品の現代的意義を検証する。さらに、既存の演劇範疇、および西洋・日本の境界を超えた独特の普遍的境地がイェイツ、パウンド、そしてハーンの作品に展開される様を、イェイツのtragic joy、パウンドのparadiso terrestreをキーワードに見極める。 本研究の総括、かつ次期研究の始まりとして、諸国際学会で発表を予定している。「英語圏文学における恥」学会,(2020年3月パリ開催延期)で、ハーンおよびイェイツの作品と日本的概念について発表。また本研究最後に着手開始した賀川豊彦(イェイツの「狂言」『猫と月』の創作に影響を与えた)研究の成果を2020年12月ポーランドで開催予定の国際イェイツシンポジウムにおいて発表する。また、2020年IASIL JAPAN年次大会(2021年秋に延期)のシンポジウムで、イェイツと日本の俳句および視覚芸術(フェノロサ、岡倉天心を含む)について発表。さらに、Oxford Handbook 、Yeats Reviewに入稿済の原稿を校正し、日本とイェイツの関係について、世に知らしめる。また、2020年度内にジョイス、ヘミングウェイに関する日本で出版予定の研究書への論文入稿予定、イェイツ、パウンドとの関連でジョイス、ヘミングウェイについても、知見を深める。 ハーンの朗読、また、新作狂言、能に関する公演企画も引き続き行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
補助事業期間延長願を以下の通り提出し、承認された。「母親が12月末に心不全となり、重度の大動脈狭窄症であると判明、4月早々に手術を行うことになったため、3月末パリで開かれる学会で報告を行い、本研究のまとめを行うと同時に、次段階の研究打ち合わせをする予定が;遂行できなく なった。そのために予定していた額の執行を次年度に持ち越すこととしたい。ただし、パリでの学会に向けて行ってき た研究報告の一部、および研究打ち合わせは、メールなどで継続する。」ただし、本学会自体が新型コロナウィルス流行のために延期され、2020年度に開催予定。この学会参加の旅費に用いるか、この学会がさらに延期された場合は、本学会の準備、および本研究総括のために必要な図書や物品購入、謝金、印刷などに用いる。
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