表象の場としての意識と映画の類似性に注目すれば、スクリーンを介した『重力の虹』の〈現実〉表象はモダニズム小説の印象を介した現実表象の発展形と見なせる。またバザンのリアリズム映画論に依拠するなら、真実を照らす光に信を置くドキュメンタリー映画製作者を主人公とし、彼女の「真の顔」を暴こうとする『ヴァインランド』は、自らが内容において語る「映画的リアリズム」を形式的にも実践した小説であると言える。2作における映画の違い(パラノイア的投影=映写とドキュメンタリー・リアリズム)が両作における「現実を見ること」の違いとなっている。重要な点は、どちらにも知への指向性が見て取れるという認識論の残存である。
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