研究課題/領域番号 |
17K02546
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
中川 千帆 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (70452026)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 家 / カントリーハウス / 相続 / 国家 / 自己 / アイデンティティ |
研究実績の概要 |
研究課題に取り組んだ事実上の初年度である30年度は、研究の全体像を俯瞰する論文「家と自己について」をInternational Crime Fiction Associationの学会で発表することから始めた。「家と自己」を考える際に、どのような作品・作家を取り上げ、どのような研究をその切り口としていくかをまとめた論文を発表した。ゴシック研究を土台に、どのようなアプローチで19世紀後半から20世紀半ばの犯罪小説を研究するかという研究計画を描いた論文であるが、犯罪小説の研究者たちが集う学会で発表したことにより、今後の課題が明確となった。他の研究者との議論から、先行研究についてアドバイスを受け、重要な視点に気づくことができた。おおむね論文の構想は好評であり、これからの議論の発展に自信を持った。 学会発表論文を執筆しながら気づいたのが、カントリーハウスの犯罪小説における意味について考える必要性であった。対象としている黄金時代の犯罪小説において、家というモチーフは主にカントリーハウスという形で登場するからである。最初の研究実施計画にはないトピックであったが、犯罪小説、またはゴシック小説における家を考える際には、欠かせないものであることに気づき、(犯罪小説ではない)カントリーハウス小説とカントリーハウスを舞台とした犯罪小説について考察する論文を30年度後半に完成させた。ゴシック小説が犯罪小説とのあいだに持つ関わりと、テーマの扱い方の変化を探るのが本研究の目的ではあるが、それ以外の文学との関わりを考えることも犯罪小説における家の意味を考えるには重要だと認識した。当初の予定にはなかった20世紀初頭のイギリス文学に描かれたカントリーハウスを考察することにより、研究の幅が増えたといえるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
初年度は病気療養のため、ほとんど課題に取り掛かることができず、30年度が事実上の研究課題に取り組んだ最初の年となった。初年度の計画とは違ったトピックにも取り組んだが、1年目としては順調な研究成果を上げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は前年度と同様にInternational Crime Fiction Associationの国際学会において、「家と自己」に関する重要な研究の一部となる論文を発表する予定である。テッィチボーン事件に基づいた作品を取り上げ、アイデンティティを確認する手続きとその背後にある概念がどのように家、また国家と絡み合っているかを検証する予定である。この発表で取り上げるJosephine Teyは当初の研究予定にはなかった作家であるが、テーマの共通性から取り上げることになった。のちには彼女により焦点を当てた研究をする必要があるかもしれないと考えている。学会後、その発表論文を発展させて、紙面発表論文にする予定である。 また次年度の後期にはPoeに関する研究を進めていきたい。前年度に学会で発表した考えを発展させ、より深く、具体的にPoeのゴシックと犯罪小説のつながりを明らかにする研究としたい。Poeと同様に研究を進める必要がRobert Louis Stevensonにあるかもしれないと考えてもいる。続けてその後には女性作家(特にAnna Katharine Green)についての研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は病気療養のため研究を進めることができず、国際学会への発表を断念したため、その経費が累積している。国際学会への参加のために研究費を使う予定にしているが、研究をできる限り進めたとしても進度には限度があり。校務とのバランスを考えても1年の遅れを完全に取り戻すことは難しいであろう。元々3年の研究計画となっているため、令和2年度に延長して、研究を進めることも予想される。
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