研究課題/領域番号 |
17K02550
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
梶原 克教 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (90315862)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カリブ文化 / 文化研究 / 視覚文化 / 身体文化 / 英語圏文学 / ポストコロニアリズム / 国際情報交換 / トリニダード・トバゴ |
研究実績の概要 |
1. 研究実施計画に記したとおり、ニューヨーク・パブリック・ライブラリーのションバーグ・センター資料室で、資料"Letters, 1939-1981(James to Webb, Transcriptions 1939-1946 Box 1"および"General Correspondence and Printed Matter, 1948-1981 Box 2"を閲覧した。Box 1はジェームズの妻コンスタンス・ウェブへ1939年から1946年に送られた書簡で、Box 2は出版社とのやりとり、集会等で配布したパンフレット、地域紙への寄稿、および妻コンスタンス・ウェブとその知人が交わした書簡からなっているが、本研究課題に関係のある非言語的文化論や身体論に関わるものについて計72枚の複写(写真)を取った。 2.昨年度の学会シンポジウム報告「文化の解釈学としてのBeyond a Boundary」の質疑応答およびロンドンで収集した資料を考慮に入れ、あらためて考察したものを論文集に投稿し、次の3点を立証した。(1)ジェームズによるクリケット選手及びそのプレーの描写は、文化人類学的な民族誌としての機能を果たし、(2)ポストコロニアリズムの文脈では、トリニダードなどカリブ出身者の対宗主国(英国)との文化的関係が、クリケットのプレイとクリケットを巡る言説において表象されるとき、それは奪用(re-appropriation)の一形態として解釈されることが多いが、ジェームズの解釈によると、それは時代と地域によって別様に捉える必要があるという点、(3)身体文化への着目は、自ずと言表可能なものと可視的なもの(非言語コミュニケーション)との相違への考察が伴わざるを得ないという点。 3.11月9日にコスタリカで開催された国際学会に出席し発表をおこない、今後の研究に向けての議論を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず上述のように、研究実施計画にしたがってニューヨーク・パブリック・ライブラリーのションバーグ・センターの資料室で、資料の収集をおこない、計画通りの資料の閲覧・複写をおこなうことができた。これらはほとんどが未出版のもので、電子化もされていないため、現地での閲覧・複写がおこなえた点において、十分な成果を得ることができたといえる。 次に、平成29年度研究実施計画に従って収集した資料(ロンドン、ジョージ・パドモア研究所)を時系列に整理し、これまで読み進めてきたジェームズ関連文献との時間軸に沿った照応をおこない、イギリス時代のジェームズがクリケットおよび身体文化へ着目した理由とその表現形態がエスノグラフィ的表象となった理由とについて、一旦の結論を出した。 さらに、その結論を昨年度の学会発表(およびそこに至るまでの文献分析)と統合し、平成30年度には、ジェームズによるイギリス時代のクリケット論『境界を越えて』をキー・テクストとして、「文化の解釈学としての『境界を越えて』」という論文を作成した(図書『エスニシティと物語り ― 複眼的文学論』(金星堂)に所収)。同論文は、研究実施期間が半分過ぎた段階での中間報告とも位置づけられる。 加えて、平成30年度には研究実施計画通り、国際学会で発表をおこない、発表時の質疑応答のみならず、3日間の学会開催期間を通して研究協力者らとの議論を重ね、米国での最新の研究動向についても情報を得ることができた。 以上の理由から、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究実施計画においては、ロンドンのジョージ・パドモア研究所での再調査をおこなうとしていたが、以下の理由で資料調査の場所をニューヨーク・パブリック・ライブラリーに変更する。 (1)2017年度におこなった同研究所での資料収集と2018年度の同資料分析を経て、イギリス時代のジェームズに関しては2018年度に詳細な分析・検討を踏まえた結論を導き出すことができたためである。(2)2018年度におこなったアメリカ(ニューヨーク)での資料収集結果と2017年度のイギリス(ロンドン)のそれとを比較すると、より価値の高い(従来と異なる視点を提供する)資料は、ニューヨーク・パブリック・ライブラリーのほうにより多く所蔵されていたからである。(3)アメリカ時代のジェームズによる身体文化やポピュラー・カルチャーに関する議論の背景として、1930年代から50年代のアメリカ文化の様相についても調査する必要がある。 つまり、2019年度の研究はアメリカ時代のジェームズにより焦点を当てるという意味でも、資料価値がより高いものを再調査するという意味でも、資料調査の場所をロンドンのジョージ・パドモア研究所からニューヨーク・パブリック・ライブラリーに変更する。 今後の計画としては、(1)2018年度に収集した資料を2019年度に整理・分析すると同時に、(2)これまでの本課題での研究を、12月の日本比較文学会で発表するポストコロニアル状況下における身体文化に関する論考に発展させ、(3)2020年2月にニューヨークで資料収集をおこない、最終年度での研究目的達成へ向けて研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
執行残額が1,793円と少額で研究目的に適う執行が不可能だったため、次年度の物品費の一部に充てる予定である。
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