研究課題/領域番号 |
17K02550
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
梶原 克教 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (90315862)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カリブ文化 / 文化研究 / 身体文化 / 英語圏文学 / ポストコロニアリズム / トリニダード・トバゴ / 視聴覚文化 / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、C. L. R. ジェームズが活動したトリニダード、英国、米国の3カ所での身体に関する考察の相違と相関関係について分析することであり、研究計画に従い、すでに2018年度にはイギリスにおけるジェームズのクリケット論を中心に彼の身体文化へのアプローチを分析し、2019年度にはトリニダードにおける考察に関してひとつの結論を導きだし、それぞれ論文発表と学会発表をおこなった。 2020年度は、アメリカにおけるジェームズの身体論を中心に分析し、「C. L. R. ジェームズによるアメリカの身体論」という論文で、ひとつの分析結果を発表した。同論文では、アメリカ時代のジェームズが、イギリス時代とは異なり、クリケットのようなスポーツを対象に身体を論じることがなくなった点を指摘し、イギリス時代と異なるジェームズによる身体論の傾向について2点から論じた。 まず、身体を人種化することへの抵抗である。歴史的に見ると、運動する身体はしばしば人種化されてきており、それがかえって偏見を生むこともしばしばあるからだ。たとえば、「黒人の身体能力は生まれつき優れている」だとか「黒人は水泳が苦手」などという言説はその代表である。アメリカという多人種国家では特にその傾向が強く、ジェームズがアメリカ時代に残した文章からは、そうした人種化よりもむしろ、身体を階級などの社会関係において考察する傾向が強く見られることを指摘した。 次に、ジェームズが運動する身体ではなく、ポピュラーカルチャーにおける身体性に傾倒しはじめたことに焦点を当てた。彼は、ポピュラーカルチャーとしてのG. W. グリフィスやC. チャップリンの映画に注目したが、それはイギリス時代に注目していたクリケット同様にポピュラーなものであり、だからこそ、複層的な社会関係に置かれた身体性の特徴と価値と影響力が明らかになることに重要性を見いだしたのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画では、まずトリニダード、イギリス、アメリカ各地でのジェームズによる身体論を分析したうえで、最終的に3地点での身体論の総合的比較をおこない、最終的な結論を導き、分析結果の精査をおこなうために、本年度は国際カリブ文学会(International Conference on Caribbean Literature)に出席し、その成果発表と意見交換をおこなう予定であった。 しかし、新型コロナウィルス感染症の影響で、予定されていた国際学会が中止となり、分析結果精査の機会を失ったため、最終的な結論を出すことを見送らざるを得なかった。それゆえ、研究期間を1年間延長し、2021年度に研究結果の精査をおこなうこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に国際学会ICCL(International Conference on Caribbean Literature)が開催されるかどうか、またワクチン接種状況に応じてそれに出席可能かどうか(隔離期間との兼ね合いも含め)、予断を許さない状況ではあるが、今後は以下の2方向で研究の推進方策を考えている。 まず、本来の研究計画から少し逸れてしまうが、国際学会という開催可能性および渡航の見通しがつきづらいものとは別に、国内の学会での発表による研究結果の精査をおこなう。すでに6月開催のアメリカ文学会中部支部での発表(オンライン開催)が認められており、次善の策としての精査の機会は確保されている。次に、ICCL以外の国際学会(たとえばIngles)にもエントリーしておき、発表機会の可能性を増やしておく。 6月の学会発表後の質疑応答および意見交換を経たのちに、暫定的な研究成果として、7月出版予定の論文を論集『ハーレム・ルネサンス -〈ニュー・ニグロ〉の文化社会批評-』(明石書店)にて発表することになっている。 同論文では、トリニダード、イギリス、アメリカでのジェームズによる身体論の総合的比較を踏まえ、「ハーレム・ルネサンス」というアメリカにおける文脈における彼の論考の位置づけと、そこから現代のポピュラーカルチャーにまで広がる彼の身体文化解釈の射程とを論じる予定であり、当該論文への研究者からの反応を最終的な研究成果に反映させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の影響で、予定されていた国際学会が中止となり、研究計画として設定していた分析結果精査の機会を失ったため、最終的な結論を出すことを見送らざるを得なかった。それゆえ、研究期間を1年間延長し、2021年度に国際学会もしくは同様の機会を利用して、研究結果の精査をおこなうこととしたため。
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