ナサニエル・ホーソーンの「ロマンス」を特徴づける「中間地帯」と呼ばれる現実と想像が混在するテクスト空間を、ニューヨークとニューイングランドの文化的融合という地政学的観点から論じる可能性を突き止めた2021年度の研究成果を踏まえ、2022年度は、ホーソーンと時代を共有し、現代のアメリカ文学史において19世紀を代表する作家としてその地位が確立されているハリエット・ビーチャー・ストウに研究対象を拡大した。日本アメリカ文学会全国大会において、奴隷廃止論小説『アンクル・トムの小屋』の作家として広く知られるストウを、ニューイングランド地方主義作家として再評価する研究発表を行い、その成果を論文「『鉄道以前の時代』という歴史意識――ストウ文学にみるアメリカ地方主義文学の伝統」として『改革が作ったアメリカ』に発表した。さらにストウのニューイングランド中心主義をフロリダ紀行『パルメットヤシの葉』に辿る論文「ハリエット・ビーチャー・ストウの南部――フロリダ滞在記『パルメットヤシの葉』を読む」を日本ウィリアム・フォークナー協会の学会誌『フォークナー』(第25号)に発表した。ストウについての研究を通して、「アメリカン・ルネサンス」に回収されない、アメリカ文学における新たなリアリズム文学の伝統の発見につながったばかりでなく、ストウがニューイングランドとニューヨークを折衷させることによって、ハウエルズが主導した主流のリアリズム文学とは別の東部中心の新しいリアリズム・ジャンルを打ち立てることを試みていたことを明らかにすることが出来た。
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