研究課題/領域番号 |
17K02554
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 亨 青山学院大学, 経営学部, 教授 (40245337)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 北アイルランド / 紛争 / 宗派対立 / インターフェイス / ミューラル / ポスト紛争 / ブレグジット / 和平プロセス |
研究実績の概要 |
2019年度は論文一本を書き、口頭発表を一回、講演(公開講座)を一回行った。 論文は「北アイルランドのプロテスタントの衰退(2)」である。当地においてプロテスタントはカトリックに対して多数派で、支配する側として語られることが常である。しかし、1960年代後半以降の北アイルランド史(紛争史)は、1922年の建国以来、 議会ならび実生活において優勢だったプロテスタントが既得権を失っていく歴史であり、その点において「衰退」の歴史といえる。この経緯を公民権運動の展開などを軸にして辿った。2020年度も続編を書くつもりである。 口頭発表は日本アイルランド協会、年次大会シンポジウム「アルスターの詩人たちと伝統」に一パネラーとして参加した。「ジョン・ヒューイット――誠実なるアルスター人」と題して、ベルファスト生まれのプロテスタント(長老派)で、入植者の立場にあったジョン・ヒューイット(1907-87)が、同じくスコットランドから入植し、スコットランド英語で詩作した一群の詩人たち「機織詩人」の作品をいかにアルスターの詩的伝統の一部とみなしているかについて論じた。 また、著書『北アイルランドを目撃する』の執筆はほぼ完成した。本書は『北アイルランドとミューラル』、『北アイルランドのインターフェイス』に次ぐ三冊目の写文集である。当地の歴史、社会、文化について85項目を選び、私が当地で撮った写真を添えた研究書である。本年度、刊行できる目処がついた。 最後に、研究テーマの「ブレグジット」についてであるが、2019年度、日本アイルランド協会主催の公開講座「BREXITとアイルランド」において講師を務め、「北アイルランドのUK離脱――アイルランド南北統一の予兆」と題して講演した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究テーマの一つ、ブレグジットは、離脱条件を定めた協定案が英国議会で3回否決され、期限の2019年3月29日を過ぎてもまとまらず、一時、宙づり状態だったが、最終的には離脱となった。これほど手間取った原因の一つが、アイルランド島にある国境の問題であり、このことからも英国のEU離脱は北アイルランドの今後と深く関係することがわかる。この問題は、現地調査を含め、今後さらに注視を続けていきたい。 もう一つのテーマである紛争後の北アイルランド社会については、今年度も現地調査を行った。現地を実際に歩き、その社会の変化を肌で感じ、また住民とのインタヴューを重ね、平和というポスト紛争の社会の一面を実感した。そして、同時に、依然解決されていない紛争や対立の現在の諸相を観察できた。 現地調査の成果を踏まえ、今年度『北アイルランドを目撃する』が刊行される予定であり、ほぼ予定通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究はこれまでと同様、論文を書き、口頭発表を重ね、そして現地調査を続けることである。大きな目標は著書2冊の出版である。まずは2020年度に 『北アイルランドを目撃する』を、その後、研究期間内に『アイルランド変奏』を出版したい。この目標に沿って、また、同時進行で、今後の研究を推進する予定である。とくに、紛争についてのまとまった研究書はもちろん、北アイルランドのアーツ・カウンシルが中心となって出版されたもの、あるいは、カトリック系、プロテスタント系両コミュニティの活動家らが中心になって編集、執筆したパンフレット類などで重要なものが多いので、そうしたものを視野に入れながら研究を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査でインタビューをするつもりで、その際、謝金が発生する予定だったが、新型コロナウィルスの拡大・感染の影響で現地調査が予定通り行われなかった。物品購入に充てる予定である。
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