研究課題/領域番号 |
17K02554
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 亨 青山学院大学, 経営学部, 教授 (40245337)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アイルランド / 英国 / 北アイルランド / 植民地 / 紛争 / ポスト紛争 / ブレグジット / ヨーロッパ |
研究実績の概要 |
2020年度は著書(単著)『北アイルランドを目撃する』を出版し、論文を一本書き、また、「ワークショップ左川ちか生誕110周年記念会」の一パネラーとして口頭発表した。 著書は『北アイルランドとミューラル』、『北アイルランドのインターフェイス』に次ぐ三冊目の写文集で、当地の歴史、社会、文化などについて85項目を設定し、1993年以来、撮り続けてきた写真を添え、見開きの形で解説、考察したものである。 おもにミューラルの変遷を通して歴史と文化を辿ったものだが、それ以外に、政治家、詩人、農民など、さまざまな人々との取材も踏まえたものも多く含み、総合的な内容となった。そして、社会情勢としては1998年のベルファスト合意前後、また、ブレグジットで揺れる現在までを含み、この20年ほどの通史となった。 研究期間中の成果を存分に生かせたが、とくに、ベルファストがコロナ禍で都市封鎖される直前、2020年3月に現地調査をできたことが大きく、その成果を最大限活かすことができた。研究テーマの「ポスト紛争」と「ブレグジット」についても最新の動向を盛り込むことができた。 論文は「植民地と故郷――清岡卓行、三木卓、後藤明生(一)」である。本論は日本の作家、詩人と日本の旧植民地(満洲、朝鮮)を扱ったもので、北アイルランドの入植者、および、植民地研究に通底する研究の一環である。入植者にとって植民地が故郷となる点、北アイルランドのプロテスタント入植者と同じだが、日本の場合、その後、植民地が返還され、入植者が日本に引き揚げをしたという点が異なる。本論は詩人や作家が生きた時代、そしてその作品を通し植民地と故郷の問題を探求した。2021年度には続編を書く予定である。 ワークショップ(オンライン)の発表は、モダニズムの詩人、左川ちかの詩に対するアイルランド文学翻訳の影響という視点から左川の詩の特徴を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最大の理由は著書『北アイルランドを目撃する』を出版できたことが挙げられる。本書出版には、予想以上に時間がかかったが、そのぶん、広範なテーマを扱うことができた。なによりも、ブレグジットの問題をより深く調査することができた。いずれにせよ、毎年継続してきた現地調査の結果を最大限、盛り込むことができた。 残念なことは、私に限ったことではないだろうが、コロナ禍で2020年度、予定していた現地調査ができなかったことである。コロナ禍終息の見通しが立たず、現地調査のための予算を3月まで保留したものの、結局、コロナ禍が続いたため消化することができなかった。 研究テーマであるポスト紛争とブレグジットについては、現地調査ができないぶん、海外メディアのニュースや新聞(とくに映像付きのもの)で調査し続けている。
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今後の研究の推進方策 |
本年はなによりも北アイルランドの現地調査を行いたい。また、論文「植民地と故郷――清岡卓行、三木卓、後藤明生(二)」を書く予定である。 さらにはパトリック・カヴァナの伝記的小説『グリーン・フール』の翻訳を終えたい。カヴァナの出身地、モナハン州はアイランド共和国に属し、北アイルランド6州には含まれないが、6州と同じくアルスター州に属す。さらには北アイルランドとは国境を接する「ボーダー・カウンティ」である。歴史的、社会的、文化的にも興味深い地域であり、とくにブレグジットの影響という点では、北アイルランドを逆照射できる地域である。そういう意味からも、北アイルランドばかりでなく、モナハン州でも現地調査を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため2021年3月に予定していた北アイルランド現地調査ができず、結果的に、調査用に予定していた予算分が消化できず、次年度繰り越しとなった。2021年度の現地調査費に充当する予定である。
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