研究課題/領域番号 |
17K02557
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
権田 建二 成蹊大学, 文学部, 教授 (00407602)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 英米文学 / 法と文学 / 人種関係 / 人種隔離訴訟 |
研究実績の概要 |
研究計画の1年目である平成29年度は、理論的整備のための調査・収集を主に行い、その途中の成果としてまとめたものを10月に学会で発表した。 平成29年度は、19世紀末の白人・黒人の人種関係を分析するために、一滴でも黒人の血が入っていれば黒人と見做す南部の慣習である「ワンドロップ・ルール」に焦点を当て、これが形成される歴史的経緯や、19世紀末から20世紀初頭にかけて法制度化される背景について調査した。その結果次のことが明らかになった。このワンドロップ・ルールは、19世紀後半に、人種隔離政策が法制度として、また慣習として浸透していく過程で、19世紀末に急速に法制度化されるようになったこと。しかし、その一方で今日そう思われているほど、厳密に適用されていたわけではないこと、である。厳密に人種を分類しようという意識がこの時代の合衆国社会にあったのは事実だが、それと同時に、すでに人種の混交がかなり進んでいる社会において厳密な人種分類の適用は不要な混乱を招くため好ましくないという意識があったことが、裁判所の判例などの法的言説によって裏付けられる。このような相克がこの時代の人種関係を形作っていたことがわかったのは、人種関係とは、一般的に理解されているよりも、もっと複雑さを孕んでいることが判明したという点で貴重であった。 以上のことを念頭に、19世紀末に書かれたマーク・トウェインの作品『まぬけのウィルソン』(1894) の読解を行なった結果、この作品で描かれている人種分類において支配的なのは、ワンドロップ・ルールではなく、女性を人種の再生産の道具とみなす男性中心主義であるという結論に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は、19世紀末の合衆国において人種隔離の法制度化の象徴である、1896年のプレシー判決について資料を集め、分析する準備を行うはずであった。しかし、この判決を論じるに当たって、19世紀末の人種関係の理解について整理する必要があると判断し、まずはこれに関して、調査することとした。その結果として南部の法制度であり、監修でもあったワンドロップ・ルールについて調べることとなった。 このため、当初の研究計画を一部変更する必要があった。その意味では、進捗がやや遅れていると言えるが、新たな調査は充実したものであり、人種隔離訴訟に関する今後の研究を発展させるものとして有意義であった。 また、当初の予定通り、途中までの成果を10月14日に鹿児島大学での日本アメリカ文学会全国大会で発表できたことは、大変有意義であった。そこでの質疑応答等で受けた質問、意見、感想等を今後の研究に活かしたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、プレシー判決を中心に、引き続き19世紀末の人種隔離訴訟について調査すると同時に、1954年に公立学校での人種隔離を違憲としたブラウン判決に至る20世紀前半の黒人運動家たちの活動に焦点を当てて調査を行いたい。このため、夏期休業中に渡米し、議会図書館での資料収集にあたる予定である。 資料調査活動と並行して、論文によって途中までの研究成果をまとめ発表したい。まず、昨年度学会発表を行なった際の原稿を英語論文としてまとめ、学術誌に投稿する予定である。この他にも、プレシー判決をはじめとする人種隔離訴訟においてしばしば問題となった列車の車両における人種の隔離について、その起源を調べ、論文としてまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算があまり消化されていないのは、予定していた海外出張を、校務の関係で取りやめたためである。繰り越した額は、本課題の資料調査のための海外出張で執行する予定である。また、パソコン等の資料整理・論文執筆のための機器の購入も予定している。予算の多くは、旅費と機器備品費にあてることになる。これら以外にも、資料や消耗品の購入に当てるほか、英文論文のチェックのために謝金・人件費として予算を支出する予定である。
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