研究課題/領域番号 |
17K02557
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
権田 建二 成蹊大学, 文学部, 教授 (00407602)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 英米文学 / 法と文学 / 人種関係 / 人種隔離訴訟 / レイシズム |
研究実績の概要 |
平成30年度は、研究の全体像整備のための資料調査・収集を主に行い、その途中の成果を3月に論文としてまとめた。 資料を整理し、研究の全体像を見直したことで、南部の人種隔離を変革させる出来事であった1954年のブラウン判決に至るまでの、アフリカ系アメリカ人の法廷闘争の歴史的な過程を整理するために、今後、これを大きく次の四つの時間的区分に分けて検討することにした。(1) 奴隷制廃止論が盛んになる1830年代から、南北戦争が終結して奴隷制が廃止される1865年にかけての奴隷制の時代。(2) アフリカ系アメリカ人に市民権が認められるようになった1865年から1877年にかけての南部再建の時代。(3) 南部再建の反動として、人種隔離が徹底されるようになった1870年代から1910年代にかけてのニュー・サウスの時代。(4) 20世紀初頭から1960年代前半にかけての人種隔離撤廃の運動とそれに対する反発があった時代。 これらに関して、それぞれ次の課題を明らかにした。 (1)19世紀末から20世紀にかけての人種隔離の起源を探るために、奴隷制の時代の北部および南部でのレイシズムについて調査すること。(2)解放した奴隷に権利を与えるべく生まれた、憲法修正条項等の法律制定の意図とそれに対する反発の理由を明らかにすること。(3)アフリカ系アメリカ人の地位向上を目指した憲法修正条項を、合衆国最高裁がどのような判断において制限することになったのかを判決文を通して検討すること。(4)1909年に設立されたNAACPが人種隔離を廃止にすべく行った法廷闘争の歴史において、どのような論理とレトリックによって人種隔離を批判していたのかを分析すること。 これらの課題に取り組むことで、人種隔離法誕生の歴史的な条件とブラウン判決に至る人種隔離法の撤廃の法解釈・思想史的な過程を明らかにすることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度は、各論に入る前の全体像の整理を行ったが、全体像としての枠組みの設定に思いのほか時間がかかったため、当初の予定より研究が遅れることになった。しかし、各論の一つである奴隷制の時代に関しての研究は、おおむね順調に進展していると言える。平成30年度に行った具体的な研究内容および研究成果は以下のとおり。 1865年から1954年に至る人種隔離法の誕生とその撤廃までの過程で争われた、人種隔離の廃止を訴えた訴訟に関する調査として平成30年9月に合衆国ワシントンDCの議会図書館において、重要な合衆国最高裁判決の弁論趣意書等に関する調査を行った。そして、ウィリアム・ウェルズ・ブラウンの小説『クローテル』(1853) を題材に、奴隷制が存在していた19世紀半ばにおけるレイシズムに関する研究を論考にまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
前述の「研究実績の概要」にある四つの時代区分に即していうと、二番目である、1865年から1877年にかけての南部再建の時代から、三番目の1870年代から1910年代にかけての南部再建に対する反動があったニュー・サウスの時代、そして四番目の 20世紀初頭から1960年代前半にかけての人種撤廃運動と人種統合に対する反発があった時代までを特に対象として、それぞれの時代区分に対する理解を深めながら、全体的な理解を深めるよう調査・分析を行う。 より具体的には、19世紀末から1954年のブラウン判決にかけての時代に関する調査を中心に、そこで課題となる合衆国最高裁およびアフリカ系アメリカ人の法律家たちの憲法解釈を分析しながら、 南部再建の時代における憲法修正条項制定の意図および、19世紀末の人種隔離が激化した時代における人種隔離法の意味を適宜、調査・分析していくことになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の予算で繰越分があり、さらには平成30年度の予算も約78%の消化率となったため、さらに次年度使用額が増えることとなった。 このような事態となったのは、予定していた海外出張を校務の関係で取りやめたためである。繰り越した額は、次年度に資料調査のための海外出張で執行する予定である。また、パソコン等の資料整理・論文執筆のための機器の購入も予定している。予算の多くは、旅費と機器備品費にあてることになる。これら以外にも、資料や消耗品の購入に当てるほか、英文論文のチェックのために謝金・人件費として予算を支出する予定である。
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