研究課題/領域番号 |
17K02557
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
権田 建二 成蹊大学, 文学部, 教授 (00407602)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 法と文学 / 人種関係 / 人種隔離訴訟 / レイシズム / 奴隷制 |
研究実績の概要 |
研究計画の3年目である令和元年度は、理論的整備のための調査・収集を主に行い、その途中の成果としてまとめたものを5月に論文として発表した。 令和元年度では、黒人と白人を分けているだけで、差別を意図しているわけではないという人種差別正当化の論理である〈分離すれど平等〉原則が形成された過程に焦点を当て、次の三点に関して研究を進めた。 (1) 作家ラルフ・エリソンのエッセイに表れる20世紀初頭から前半にかけての人種関係及びアフリカ系アメリカ人にとって合衆国憲法が持つ意義に関する調査、(2) 19世紀の人種隔離訴訟の歴史をたどる、〈分離すれど平等〉原則の法思想史的起源の調査、(3) 〈分離すれど平等〉原則に抵抗する全米有色人種地位向上協会の法廷戦略に関する調査。 (1) によって、19世紀末から20世紀初頭の人種隔離が最も徹底されていた時代においても、アフリカ系アメリカ人にとって、合衆国憲法は大きな拠り所としてあり、それが20世紀半ばの人種隔離訴訟での勝訴につながる法廷戦略の源泉であることが確認できた。また、 (2) によって、一般的に19世紀末のものだと考えられている〈分離すれど平等〉原則の起源が、直接的には南北戦争以前の 1850年のマサチューセッツ州の判決にあり、それがその後の州及び連邦の法廷による人種隔離正当化の基盤となっていることが確認できた。また、(3) によって、人種隔離撤廃のための全米有色人種地位向上協会の運動が、〈分離すれど平等〉原則を攻撃の対象として見据えたものであったことが確認できた。 これらの調査をとおして、〈分離すれど平等〉原則の法思想史的連続性を確認でき、それが人種隔離が学校教育においてなされなければならなかった必然性を示唆していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度は、勤務先で役職につくこととなり、令和二年度から開始の新カリキュラムの準備のための仕事に追われ、すでに当初の予定より遅れていた研究の遅れを取り返すことができなかった。しかし、本研究計画の中心的な課題である〈分離すれど平等〉原則の思想史的起源に関しては、20世紀初頭の人種隔離訴訟に関する調査を進めていく過程で大きく理解が進展した。令和元年度に行った具体的な研究内容及び研究成果は次のとおりである。1850年の「ロバーツ対ボストン」判決の概要を調査することで、〈分離すれど平等〉原則の歴史的起源として確認することができた。また、〈分離すれど平等〉原則に抵抗する全米有色人種地位向上協会の戦略の成立過程を調査することで、1933 年の「マーゴールド報告書」の重要性を確認することができた。さらに、作家ラルフ・エリソンのエッセイを通して、20世紀初頭の人種関係及びアフリカ系アメリカ人の合衆国憲法観に関して調査を行い、論考にまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
令和二年度は、〈分離すれど平等〉の原則の確立及び普及が学校教育においてなされたことの意味について考えてみたい。このため、【現在までの進捗状況】で述べた「ロバーツ対ボストン」判決及び「マーゴールド報告書」に関して、より深く切り込んだ調査を行う予定である。と同時に、1954年のブラウン判決後の、人種隔離撤廃に対する南部の反対運動 “Massive Resistance” についても並行して調査をする予定である。〈分離すれど平等〉の原則の確立が学校教育であったこと、そして人種隔離撤廃に対する南部の反対運動がとりわけ、学校における人種分離撤廃に対するものであったことの意味を明らかにしたい。そうすることで、人種隔離撤廃の先駆けとなった1954年のブラウン判決が学校教育における人種隔離訴訟に関するものであったのは、決して偶然ではなく必然であったことが明らかになるはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度の予算を全て消化することができず、次年度使用額が増えることとなった。 このような事態となったのは、予定していた海外出張をコロナウィルスの流行による感染防止のために取りやめたためである。繰り越した額は、次年度に資料調査のための海外出張で執行する 予定である。また、パソコン等の資料整理・論文執筆のための機器の購入も予定している。予算の多くは、旅費と機器備品費に充てることになる。これら以外にも、資料や消耗品の購入に充てるほか、英文論文のチェックのために謝金・人件費として予算を支出する予定である。
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