研究課題/領域番号 |
17K02557
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
権田 建二 成蹊大学, 文学部, 教授 (00407602)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 法と文学 / 人種関係 / レイシズム / 人種隔離 / 奴隷制 |
研究実績の概要 |
研究計画の4年目である令和2年度は、調査・収集を行うと共に、その途中の成果をまとめる予定であった。 令和元年度の調査をとおして、19世紀末から20世紀前半にかけての〈分離すれど平等〉原則の法思想史的連続性を確認できたことを踏まえて、令和2年度では合衆国における人種隔離という制度・慣習を通史的に整理することとした。このため、合衆国の鉄道における人種隔離を調査対象として取り上げて、以下のことを確認した。 (1) 南北戦争以後から20世紀半ばにかけての合衆国南部に固有の現象だと思われていた人種隔離は、ほぼ同じ形で南北戦争以前の北部においても存在していたこと。特に、鉄道が公共の交通機関として確立されるようになったごく初期の段階から、鉄道における人種隔離は鉄道会社の規則として存在していた。(2) このことは、南北戦争以前の北部でも後年の南部と同じような、アフリカ系アメリカ人に対する偏見・人種差別があったことを意味するということ。(3) それと同時に、このことは南北戦争以前の北部における人種隔離と南北戦争以後の南部のそれは全く同じではなく、19世紀後半以降の南部における人種隔離は法制化されたものであるという点で大きく違っていたこと。(4) そして南部では人種隔離を法制度化しなければならなかった理由には、人種の混交がより広い範囲で進んでいた南部では黒人と白人をより厳密に差異化・分類する必要があったことが考えられること。 以上の考察を通してより体系的に合衆国の人種隔離制度・慣習および〈分離すれど平等〉原則の期限を整理し理解することにつながった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究計画の4年目である令和2年度は、調査・収集を行うと共に、その途中の成果をまとめる予定であったが、思ったほどの成果が出せず、研究計画に遅れが生じることとなった。新型コロナウィルス感染症の世界的な流行がその主な理由である。このため米国での資料調査を断念せざるを得なかった。このように直接的な影響があっただけでなく、学科主任として新型コロナウィルスによって生じた学科運営上の様々な混乱に対応するため、多くの時間が取られた。 しかし、南北戦争以前の北部での鉄道における人種隔離に着目する必要があるという新たな視点を獲得することができたのは、本研究計画の中心的な課題である〈分離すれど平等〉原則の思想史的起源を理解する上では大きな進展だった。というのも、これを調査することで、南部と北部のレイシズムの連続性と同時に、南部の法制度化された人種隔離と北部で慣習としてあった人種隔離の違いが鮮明になったからである。これにより〈分離すれど平等〉原則の普遍性と特異性を整理するきっかけを掴むことができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、【研究実績の概要】で述べた4つめの点、つまり、黒人と白人をより厳密に差異化・分類する必要性があったことが、南部で人種隔離が法制度化された理由としてあったという仮説をより緻密に検証して行きたい。このため、北部マサチューセツで人種隔離に反対していた奴隷制廃止論者の主張において、奴隷制廃止論と人種隔離反対論はどのように思想的な連続性があったのかについて調査を行いたい。マサチューセツで1830年代後半には複数の路線で一般化していた鉄道における人種隔離は、1843年に鉄道会社の自浄努力により廃止される。鉄道会社にこのような判断を促したのには、奴隷制廃止論者の議会に対する働きかけが大きかった。この時、奴隷制廃止論者の運動は、また異人種間の結婚を禁止する州法の廃止を求める運動と並行して行われた。一方で、1849年のロバーツ判決では、ボストンの公立学校における人種による分離はマサチューセツ最高裁判所によって認められた。 異人種間の結婚を禁止する法律に対する廃止論と学校教育における人種隔離撤廃論とが、鉄道での人種隔離廃止論とどのような関係にあったのかに焦点を当てて調査を進めたい。とりわけ、一方では、異人種間の結婚を禁止する法律が廃止され、他方で学校教育における人種隔離が是認されるという矛盾が何を意味しているのかを探りたい。というのも、異人種間の結婚と学校教育での人種統合に対する恐怖は密接に結びついて、19世紀末から20世紀にかけての南部での人種隔離での最も大きな原動力となっていたからである。したがって、この二点と鉄道における人種隔離反対論との関係性を明らかにすることで、後年の南部における人種隔離の特異性または連続性を浮き彫りにできるだろう。 可能であれば、合衆国において資料調査を行いたいが、ひとまず国内で入手できる一次よび二次資料を中心に研究を進めることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度の予算を全て消化することができず、次年度使用額が増えることとなった。 このような事態となったのは、予定していた海外出張をコロナウィルスの流行による感染防止のために取りやめたためである。繰り越した額は、可能であれば、令和3年度に資料調査のための海外出張で執行したいと考えている。また、パソコン等の資料整理・論文執筆のための機器の購入も予定している。予算の多くは、旅費と機器備品費にあてることになる。これら以外にも、資料や消耗品の購入に充てるほか、英文論文のチェックのために謝金・人件費として予算を支出する予定である。
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